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ごちゃごちゃ懇願する三上を何とか振り切り、魚往はようやく自分のクラスへと辿り着いた。

がやがやとまだ騒がしい教室を見渡し、さりげなく窓際の席の彼を見つける。
先ほど耳にたこが出来るほど聞いた名前の男。

相変わらずあくびをしながら、眠そうに稔の話を聞いている。
聞き役なのか、と魚往はぼんやり思いながら、起立と号令をかけた。

ゆっくりと静まってゆく声と共に、教科書を開く音が明るい教室に響き渡る。
その音が、魚往は好きだった。
それを聞きながら、彼は付箋を引っ張りながらページを指定する。

彼自身もしたくない課程。


「お前ら、RGっつうのは現社で習っていたとは思うが」


目下の教科書の図には、ふざけた生き物が映っている。
けどもそれは、確かにふざけすぎていた。


「世界史でもこいつの歴史をやるから」


呟くようにそう告げながら、魚往は板書を始める。
少し丸いその字は綺麗に文字を紡いでいった。

『RG-Reset God-について』

まるで、どこかのSF映画に出てきそうな名前だったが、それは確かにこの世界に存在している。
人類全てが眉間に皺を寄せる、そんなものが。

魚往は教科書の内容を砕かせながら、それについての授業を、始めた。






RGとは。
Reset Godの通称である。
まるで神話の登場人物かと疑うが、現実に現れる不可解な化け物だ。
姿かたちは、日本の妖怪にも類似している。
りんごに手足が付き、尚且つ目、鼻、口が付いている。
体長は400メートルと巨大。
現れた当初はただ立ち尽くすだけであるが、何らかの衝撃を受けることにより疾走し始める。
巨大な体格であるため、走った後の地面は崩壊。

1年ほどでその生物は自然に消える。
しかし、RGの『適合者』の精神が崩れればその場で消えてしまう。
だが、その『適合者』もまた骨も残さずに消えてしまうと伝えられている。


適合者、とはRGの遺伝子と合致する人物のこと。

適合者が「リセットアップル」と名づけられている特殊な成分(解析不可能)が入っているリンゴを体内に含むことによってRGに変化する。

その適合者は500年前以降、現れたことは未だ無い。
しかし、その適合者が現在日本に存在しているということが噂されている。




「後は大体お前らも分かっているだろ。テレビとかでたまに特集しているしな」

そう言えば、クラスの明るい男子が軽く質問してきた。

「もし、RGが現れたらどうすればいいすかね」

魚往は削れたチョークを置きながら、ため息を吐く。呆れた色ではなく、仕方ないといった色だった。

「走る前に、避難所だな…

まあ、ちゃんと起きて話を聞いてるやつが助かるもんだ、なんでも」



ああ、そうかと皆一瞬納得したが、彼の向ける視線の先を追って本当の意味を理解する。
窓際の席、前から3番目。
色素の薄いふわふわした髪が、日光に当たってきらきらしている。

机に突っ伏しているため顔は見えないが、上下に上がる肩で彼が寝ていると誰もがわかった。


「ったく、俺は目覚まし時計じゃねえぞ」

またもや鬼のように近づく魚往に、稔は脅えながら後ろを振り返る。
相変わらず爆睡し続ける友人を見るために。
また殴られるのを予想しながら。

しかし、予想外に魚往はその手を振り下ろしはしなかった。
下ろしたのは下ろしたが、その頭をふわふわと撫でる。


視線を送っていた一同は、ぽかんと口を開けた。
まるで慈しむようなその動きに。


が、しかし。


「起きろてめえ!」

「ひ!いただっだだだ!」


直後、その手が和樹の髪を鷲掴みにして引っ張った。
案の定痛みに悲鳴をあげる。
ばたばたと手足を暴れさせ、なんとかその痛みから逃れようとした。
しかしあっさりそれは解かれ、その代わり目の前に苦手な顔が悪魔のような笑みを浮かべていた。


「お前、そんなに俺との補習が好きか?」

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