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昼の職員室。
授業に出ている教師以外は、自分の席に座り各々の仕事を済ませていた。
魚往もその1人だが、

何やら視線を感じる。
特に斜め後ろから痛いくらいの視線が。
今まで好奇の視線は浴びたが、今回は違う。

そう魚往は肌で感じ取った。
憎しみ、妬みとは違う 何か別の類。
とにかく振り向こう、そう決意し魚往はばっと振り返った。

「…どうもー」

そこに居たのは、臨時養護教諭の三上。
何故初対面の自分に向かってただならぬ熱視線を送るのだろうか。
魚往は不思議に思いながらも、何だか相手にしたいとは思わず適当に「はあ、」と空返事をしてパソコンの液晶に視線を戻した。

が、のそりと三上は魚往の隣に移動する。
気持ちの悪い男だな、と心の中で軽蔑し、魚往は

「…何か分からないことでも」

と聞く。
そう言って分からない点を指摘されても、この学校に赴任したばかりの魚往では応対できないのだが。
しかし、三上は特に分からない点がある訳ではない。
にこにこと、人の良い笑顔を浮かべながら、

「…魚往先生って男前ですねー」

と囁く。
もしかしてこいつはアッチの人か、と魚往は寒気を走らせた。
引きつる頬を何とか根性で緩めながら、いえ別にと答える。
変な回答をして更に接近されては困るのだ。
三上は外に跳ねたふわりとした髪を弄りながら、

「女の人に飽きたりとかしてません?」

「してません」

魚往は思わず思い切り顔を逸らし、逃げる。
だが、意外なことにも三上は魚往自身に興味を示した訳では無かった。

「松本君とか可愛らしいし、興味は無いンですか?」

「…松本?」

びくり、と心臓が拒否反応を示す。
彼に拒否を示した訳ではない、
よしんば男だから拒否したというのはあながち間違いでもない。
だがそれより魚往の意識の根底にあるそれがゆらりと浮かぶあの人を思い出すから。

「…ありません、何で俺が男子生徒に興味なんて」

犯罪者になれるか、と付け足しながら魚往はため息を吐いた。
付き合ってられないと言わんばかりに。
だがそこでひかないのがこの三上准という男である。
更に目を輝かせてぐいぐいと魚往に迫りまくった。

「今の時代、生徒と教師なんて結構アリですよ!」

「ありません」

「そんな事言ってあなたが松本君を補習で軟禁したのは知ってますから!」

「あれは俺の教育方針です」

「もういいから寝取ってください」

「はいはいそうですか…って、はあ!?」


目を極限に丸くして、三上の発言に驚愕する魚往。
そのくせ、当の本人はしらっとにこやかに笑っている。
一体何が目的なんだ、もしや松本に恨みでもあるのか。
そう思うと、彼の教育者である心がアラートを発した。
今すぐこいつの目的を知らねば、と。
ごくり、と一旦唾を飲み込み魚往は乾いた唇を動かした。

「…三上先生、松本が一体何を…」

三上は、あっけらかんとした声で返答した。



「僕の美華ちゃんに好かれてるからです」






チャイムが鳴ると同時に、魚往は何も言わず職員室を後にした。
後ろから三上が追ってくるが全て無視。

「お願いですよ!僕のブロマイドあげますから!」

「いらねぇよ!」

次の授業のある教室まで着いてきた三上に、最終的に「消えろ」と言って魚往は軽くその肩を蹴った。
教え子(と言っても何か関係でもあるのだろうと魚往は予測した)
を自分のものと言い張り、
ましてや年下の男子生徒に嫉妬し、
更に同僚の教師にそいつを
寝取れと提案。
そしてナルシスト。


困った人が赴任してきたものだ、と。
魚往は自分のことを棚に上げてまたため息を漏らした。

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