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「なぁなぁ、稔。お前さ、500円あったらお菓子何買う?」

翌日の朝、開口一番に和樹は疑問をぶつける。
自分が昨日ポテトチップス一袋しか買えなかったのが不服らしい。
そんな様子など知る由も無く、稔は頬杖を付きながら答えた。

「んー、ポテチと、うまイ棒とー…肉まんとかもいいかもなぁ あ、お菓子じゃないか」

「肉まん!その手があったか!」

和樹はそれこそ大発見のように目を輝かせる。
おやつと言ってお菓子でなければいけないという法律はどこにも無いのだ。
しかし、その目の輝きが意味不明すぎて稔は若干引きながら呟く。

「いや、でも今あんのかな…春だし」

「ギリギリありますねぇ、因みに俺はあんまんが好きです」

「へえ、変わってる…って、誰!?」

唐突に会話に入ってきた、20代後半であろう男性に和樹と稔は文字通り飛び跳ねた。
見たことが無い人物に、思わず不審者かと疑い、2人同時に席を立って急いで離れる。
その引き様に、流石の三上も落ち込みながらひとつ礼をして、

「驚かせてすみません、河野先生の代わりに今日から保健室の先生になる三上准です」

以後よろしく、と挨拶をした。
白衣かつその挨拶。
ようやく2人は警戒を解き、嬉しそうに三上の近くへ寄る。ふわり、と冷たい毛布の香りが漂った。

「特に松本君、よろしくお願いします」

「ん?…俺、別に病弱とかじゃないンですけど…」

同時に、和樹に対する敵意も。
だが微弱すぎて、第三者の稔も分からなかった。

その時、三上に遅れてやって来た美華が教室に入ってくる。少々、機嫌悪く。
案の定、教室に勝手に入りあげく和樹に接触しているのだ。
美華はその可愛らしい顔を崩しに崩しまくって般若のような顔つきで睨みつける。
もちろん、和樹と稔が見ていない間に。

三上の背筋が、凍った。

「お、おはようございます、美華ちゃ…南さん」

「おはようございます」

張り付いたような笑顔はさながら天使のようだが、雰囲気は夜叉のよう。
事情を知らない和樹や稔も、その冷たさに鳥肌が立った。

はやく出てけ

心の奥底から出る怒りが、周りを震えさせる。ましてや、その怒りの矛先である三上はそれ以上。
氷のように動けずに居た。

「…南さんと知り合いかなぁ…」

こそこそと聞こえないように和樹は耳打ちする。
それと同様に稔も、

「従兄弟の兄ちゃんとかじゃね?」

妥当なことを言ってみせた。
そんなことも露知らず、三上は逃げるように2人に手を振って教室を出て行く。
やっと問題が去り、ひとまず美華は息を吐いた。

女はやっぱり裏表があるんだなと、無駄に感心している2人を見ながら。


(…あんなんでも考えているから…漏らしはしないでしょ)

ぼんやりと、願った。



(…今年はややこしくなりそうだなあ)


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