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鷹島の弁当を食べて満足した葵は、午後の授業を携帯が無くとも、寝たり落書きしたりと相変わらず不真面目に過ごした。
後々、期末テストで泣きを見ることに違いない。
そして放課後。
「葵、今日も罰掃除かー?」
彰人と渚の高平兄弟が声を合わせて葵に尋ねる。
その姿はさながら小動物2匹が遊んで欲しいかのよう。
ひょこひょこと葵の周りをうろうろする2人に、葵は慣れたものなのだが、クラスメイト達は不思議な気持ちになる。
まるで、葵が飼育委員のように見えて仕方ないのだ。
「葵ー葵ー遊ぼう遊ぼう!」
「カラオケ行こー、葵の失恋ソング聴きたーい!」
ましてや、17歳男子かこいつらはと言わんばかりのはしゃぎっぷり。
さすがに葵も少し嫌気がさしてくる。
「うーるさい!お前らはもう…、俺が鷹島ちゃんの罰掃除サボったらどうなるか知ってるだろ!」
と一喝しても、2人はくりくりと大きな瞳を楽しそうに動かして、
「知ってる!あれだろ、お仕置き!」
「きゃー!お仕置きえろーい!鷹島ちゃんの息子は何センチですかー!?」
なんて、バカにした。
けらけらと大音量の声が2つも、そのうえ内容は最悪な下ネタならばクラス全員が注目するのも過言ではない。
最悪なことに、鷹島と葵はそういった関係なのかと勘違いし始める人まで現れた。
しかし、
「は!?何言ってンだお前ら!ばか!きもいこと言うなよ!俺の好みは綺麗で可愛いちょっと色白の女の子です!」
葵は全否定。
当たり前だ。が、齋藤の心の中は先ほどのキス(というかただの事故)が何度もリフレインする。
まさかあれを見られたンじゃないかと危惧するが、この手のからかいはいつものこと。
おそらくただ単にバカにしてるだけだろうと葵は安心しながら、罰掃除に向かおうと荷物を持って職員室へ足を向けた。
「齋藤、いるか?」
すると、タイミング良く扉の外から鷹島がひょこと顔を出した。
ドア付近に居る女子生徒に軽く問うと、女子生徒はきゃあきゃあと喜びながら葵を指差した。
相変わらず人気があるんだな、と葵はぼんやり思い
ながら早足で鷹島の元に向かう。
鷹島は葵が目の前に来たことを確認すると、片手を謝るように上げて、
「わりぃ、今から俺陸上部の校外マラソンに行かなきゃなンねぇんだ。だから今日罰掃除は免除だ」
「え、マジすか!?」
本来、喜ぶべきところなのだが葵は拍子抜けしてがっかりしたような声を出してしまう。
もちろん、この声を高平兄弟が聞き逃すわけも無く。
「聞いたか渚!葵ったら寂しそぉな声出して」
「いやだよ先生お仕置きしてぇんみたいなぁ?」
けらけらと笑いながら葵の両隣を固める。
まさか本人の前で言われるとは思ってもみなかったらしく、葵は呆然と2人を交互に見やった。
だが、当の鷹島は。
「何寝ぼけたこと言ってンだ、そこのミニサイズは」
ばっさり一刀両断。
高平兄弟は2人揃って155センチ。
大きすぎるコンプレックスをはっきり言われ、抜け殻寸前になった。
鷹島にとっては名前も知らない生徒が意味の分からないことを言っただけなので気にもせず、
「そン代わり、明日の弁当うまいの作ってこいよ」
とだけ葵に伝え、何事も無かったかのように職員室へと戻っていった。
姿が見えなくなった直後、他のクラスメイトと喋っていた竜一がダッシュで葵の下へ向かう。
「え、お前、!?鷹島ちゃんとどういう関係!?」
「どういうってお前がどういう勘違いを!?」
どうやら竜一に始まりクラス全員が葵と鷹島を禁断だらけの恋仲と勘違いし始めている。
このままでは葵の最近の目標である、可愛い彼女を作ることが妨げられてしまう。
慌てて葵はクラス全員に聞こえるようボリュームを上げて、
「違う!昨日、俺が先生の弁当食っちゃったから!」
「どんなタイミングだよ!?」
「だーから!違ぇの!俺があンなムカつく先生と変な関係になるわけねぇっつのー!」
ばたばたと葵は暴れながら、そう叫べばやっと竜一含むクラス全員は納得したらしく、「そりゃそうだ」と談笑しながらそれぞれの行動を始めた。
齋藤も青木と高平兄弟と共に帰宅の準備を始める。
そうしながらも高平兄弟は声を合わせて、
「まじ鷹島ちゃんムカつくー!葵、カラオケカラオケ!」
と騒いでいたのは言うまでも無い。
けれど、当の葵は口元に手を当て、
「俺、今日は本屋寄って帰るわ。またな」
とだけ告げて、竜一や高平兄弟を置いて早足で教室を出て行った。
置いていかれた3人は顔を見合わせて、
「あの、漫画もほとんど読まないようなおバカちゃんが本屋?」
「雨が降るな、いや雪かな。つーか葵って漫画読まないンだ」
「あれな、兄ちゃんに漫画はこっちしかだめって言われて少女マンガしか読んだことねーんだよ」
疑問に思いながらも、葵のかわいそうな話で盛り上がったとか。