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たどり着いたのは体育館の裏。
と言ってもそこは薄暗くも薄気味悪くも無い。

目の前には校長お気に入りの薄緑の原っぱが広がり、心地よい風が吹き、日がよく当たる場所である。

よくカップルがここでのんびり過ごすのだが、今日は運が良いのか誰も来る気配が無い。

青空授業か?、と鷹島は不思議に思いながらも、アスファルトに座る葵の隣にゆっくりと腰を下ろした。
すると、突如ばっと顔をあげて鷹島に迫る葵。
迫るというよりは単に顔を近づけたのだが。


いつも鷹島より下に顔があるのでよく見たことが無い葵の顔。いつも鷹島は葵のつむじくらいしか印象にない。もしくは拘束違反な服装。

よく見れば、眉はやっぱり細いだの目は意外に大きいだの、結構他のチャラい奴らよりは可愛い顔をしていると気づいた。
ふと、その薄い唇がわなわなと動くのが見える。

もしかして俺はこいつを怒らせたのか?と、嫌な予感が鷹島に走った。



が、出てきた言葉は。



「俺に、携帯貸してくださいっ…!そんであとでそれください…!」


目的は携帯。
だが、鷹島には「携帯が欲しい」と認識された。
葵が欲しいのはウサギのデコメ絵文字なのだが。


「は?お前、俺の携帯欲しいのか?」

何言ってんだ、と呆れれば葵は慌てて言葉を捜し、


「そうじゃなくって!えーと、その、…デコメ…」


今更だが、可愛いもの好きを他人に知られるのは葵にとって大変恥ずかしい。それこそ男のプライドにかかっているのだ。
葵は恥ずかしさに俯いてしまう。
もごもごと「その、えと、」と言葉をたどたどしくつむぐ。その様子に鷹島は首を傾げつつ、声が聞き取れないので顔を近づけた。

目の前にはつむじしか見えないが、ふわりとシャンプーの香りがした。
いつも髪の毛の色と長さで怒り、掴んでいる小さな頭。いつもぱっと見て叱っているのでよくと見ていなかったが、


(すげーふわふわしてンな…)


金に近い茶色の髪がきらきらと日光に照らされて、まるでひまわりのように思えた。
これだけ綺麗に染まるということは、地毛は色素の薄い茶色だったのだろう。
その色でも別にいいンじゃないか、と薄っすら思いながら、鷹島は顔を見ようとよりその距離を縮めた。

が、そのとき。

ちょうどタイミングよく葵が決意をし、思い切り顔を上げ前に出た。


「おわっ!?」

「いだっ!?」

ガチン!と音を立てて、双方共に顔をぶつけた。
あまりの痛みに葵は口を押さえながらまた俯く。
顎かどこかにぶつかってしまったのだろうか、と思いながら謝ろうと顔を上げた瞬間。

齋藤の血の気が、一気にひいた。

「いてて…、おい大丈夫か齋藤」

オメーいきなり顔上げンじゃねぇよと悪態吐きながら鷹島がさする箇所は、葵と同じ箇所。

唇だ。


「うっ、げぇええ!?」

思わず叫んでしまう葵。
眉間にしわをよせ、ある程度整った顔が残念なくらい歪みまくった。
何だこいつ、と思いながらも鷹島は葵の押さえている手の位置を見て、鋭く感づく。

「…まじかよ…」

うげ、と呟きながら軽く口を拭う。
齋藤が見た目的に暑苦しかったり気持ち悪かったりしないだけマシか、と思いながらも。

しかし、相手は生徒である。
フォローをいれなければ、と鷹島は未だ呆然とする葵の肩を軽く叩いた。



「まぁ、気にすンな。事故だ事故。…それにほら、お前キスくれぇ結構してンだろ?その1回くらい気にすンじゃねぇよ」


そんなフォローを入れて。
しかし、その言葉を受けた本人はますます眉間にしわを寄せた。事故とか気にするなという言葉は全く問題は無い。だが、彼にとって大問題が

『キスくれぇ結構してンだろ?』

の箇所である。

鷹島は葵のことをヤリ●ンだと思っている。それもそのはずで、彼は女子との交流は多いうえにチャラ男。誰もがそう思うのは至極当然。

しかし、齋藤葵高校2年生は。



(ふ、ふざけンな…!俺ファーストキスなのに…!)


キスもしたことがない童貞クンだった。
彼女は今まで数人出来たことはあるが、手をつなぐくらいのレベルでいつもふられる悲しい男の子。
やっぱり友達以上に見られないの、と言われるのにはもう慣れた。(つもりである)

それなのに、大事にとっておいた(不覚にも)ファーストキスが事故で。
そのうえ男、教師、しかも自分を敵視に近い生徒指導。そして更に男前というところが傷を抉る。
相手は男前=数々の女性を相手にしてきたので傷は浅いのだ。


俺のファーストキスを返せボケぇえ!と殴りかかりたい葵。
だが、やっぱり男のプライドが高く立ち上る。
ここで童貞だとバレるのはいかがなものか葵?いやいやなんかプライド折れる悲しい!と心の中で自問自答して決めた。


「は、ははっ、は…ま、まぁ先生となンて蚊に刺されたくらいっすよー…!」


ぎこちない声で何とか虚勢を張った。
おかげで目も合わせられないが、鷹島は気にしていないのか「そうか、それならいいンだけどよ」と流す。

何とか嘘だとバレなかったようだが、どちらにしても葵のファーストキスは帰ってこない。
ああ泣きたい、とこみ上げる悲しみを堪えながらふと鷹島の左手首を見た。そこには黒く光る腕時計。

その時刻を見ると。


「うわ!?もう55分!?」



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