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「最近、色々と葵がお世話になっているみたいで…葵はどうでしたか?」

すると、さすが父親。
早速葵の事を聞いてきた。
色々と、の意味は葵が倒れた時と先日の合宿の事を指しているのだが、どうしても更に色々な事を含ませてしまう鷹島。
咽てもいないのにひとつ咳払いをして、自分の煩悩を払うと、

「そうですね…合宿では特に体調も崩さず他の部員達とも仲良くやっていましたよ。
部活の事も覚えて、頑張ってサポートしていましたし…陸上部の奴らからは入ってくれって頼まれたくらいです」

教師らしく、葵のことをちゃんと父に伝えた。
部員達は葵にぜひ入ってほしいと頼んでいたのは、葵が意外に働きやでムードメーカーだから。
しかし、葵は入りたいのは山々だがバンドとバイトで精一杯なので泣く泣く断った。
そのことも話すと、父は困ったように笑って、


「全く…陸上部に入るのならば私はそっちの方が良いのだがね…葵はどうも不真面目で困る」

葵のチャラい所を何とかしてほしいと半ば愚痴のように言ってきた。
確かに、見たところ父や兄は真面目(母は一応国際的な仕事に就いているので真面目と受け取っておく)なのに葵だけがどうも不真面目。
こちらでも一応注意はしてるんですけどね…と、鷹島もちょっと愚痴を零してみる。
何度言っても注意してもなっかなか直してこないのだ。
髪は、葵の地毛が茶色いので黒染めが出来ないと諦めているが。(それでもしてこいと言えばいいのはわかっている)

何だかんだ、父も鷹島も葵に甘いのだ。
当の本人は、もくもくと海老や肉を食べてご機嫌に啓太と戦隊モノの話をしている。
嬉しそうに笑うその姿を見て、父は安心したように彼もまたビールを飲み干した。

ふと、鷹島は父の姿を見て思い出す。
葵の部屋にうじゃうじゃとあったウサギのグッズが、父から贈られたものだということを。
真面目でそういったものに興味は無さそうに見えるが、やはり彼も葵と同じ趣味なのだろうかと探りを入れた。


「そういえば、齋藤…君はウサギが大分好きみたいですが…」

「ああ、全く17にもなって…困ったものです…あげると喜ぶのでついついあげてしまうンですけどね…」


やっぱりただの親バカだった…と、鷹島はその言動と苦笑から再確認する。
父は、普段葵にあまり会えない分お土産(うさちゃん)を与えて、喜ぶ姿がたまらなく見たいのだろう。
自分も一度あげてみようかな、とぼんやり考えながらもう一缶ビールを開けた。
ふと、父が葵を横目で見ながら小さく溜息を吐く。


「あのうさぎだけが特別らしいです」


私にはよく分かりませんが、と小さくまた苦笑しながら。
鷹島は驚いて思わず目を見開いて葵に視線を向けた。相変わらず一生懸命ピーマンやキャベツを食べている。
ただの可愛いもの・動物好きだと思っていたので意外と思えたのだ。
確かに葵は動物が好き。動物を模した可愛らしいキャラクターも好きだ。
けれど、あのうさちゃんだけは頭1つ飛びぬけて特別らしい。

父親から聞く葵の意外な面を知れて、鷹島は上機嫌に自分の取り分を持って葵の隣に座ることにした。
残りの焼く係は誠一に任せることにして。

先ほども避けられたので、少し勇気がいるけれども葵の機嫌が良いので遠慮せずに座る。
葵は初め気づかなかったのだが、ふと隣を見ると先ほどまで啓太がいたはずなのに鷹島に摩り替わっていて思わず声をあげて驚いた。
因みに啓太はお腹いっぱいになったので、一足先に興津家の居間でテレビを見ている。


「いつの間に…ビビったぁ」

「俺は化け物か」


鷹島は相変わらず自分にビビる葵に呆れながら、好物のホタテをパクつく。
しょうゆをちょっと垂らして貝の味を楽しむのが好きらしい。
葵はどちらかといえば、焼肉のタレに浸けて食べるのが好きなので「味薄くないのか?」と疑問に思いながらじっと鷹島を見つめた。


「齋藤も食うか?」

すると、食べたいという視線に捉えた鷹島は、魚介類をまとめた皿を差し出す。
葵は素直にそれを受け取り、よく焼かれた海老を口に入れた。
ほどよい甘さと旨みが口に広がり、思わずふにゃっと笑顔を零してしまう。
うめーと呟きながら、ついでにホタテもタレにたくさん浸けて食べ始めた。


「やっぱ海老うまい…あっ、センセもどうぞ」

「おう」

ご機嫌に鷹島に皿を回して、自分はまた野菜を食べ始める。
意外と野菜も大好きらしい。パクパク食べる葵を横目で見ながら、鷹島はまたビールを飲んだ。
酔いが徐々に回ってきて、気分が良くなる。
隣に葵がいて、避けられていないということにやけに嬉しくなった。

思わず、くしゃっと笑みを零して呟く。



「お前に嫌われたかと思って焦った」



良かった、と本音を零した。
そう、鷹島は葵に避けられてからずっとどうしてだとちょっとネガティブになっていだのだ。
しかし親戚達の世話に忙しくて、そんなこともちょっと忘れていたが葵にまさか実家で会うとは思わず、また焦っていた。
けれど、今葵は避けることなくちょっと嬉しそうに鷹島と食事をしている。
何だかとても嬉しかったのだ。

その言葉を聞いた葵は、最初意味を理解せずぽかんと口を開ける。
だが、徐々に理解する内にかっかと頬が火照った。
嬉しそうにくしゃっと笑って、まるで葵に嫌われていなくて良かっただなんて。
そんなことを言われたら、今の葵には、


(やべ…どうしよ、泣きそう…)


度が過ぎて毒に近い。
胸が締め付けられるようにきゅうっと痛む。それは、辛くて痛むものとは違う痛みだった。
早まる鼓動を抑えて、葵はなるべく鷹島の顔を見ないようにしながら、


「えと…、ごめん…なんつか、腹の居所が悪くて、」

さすがに鷹島と琴子を夫婦だと勘違いして嫉妬したとは言えず、適当に繕う。

「それを言うなら虫だろうが…」

意味の分からない返事にツッコミを入れながら、鷹島は嫌われた訳ではないと分かりホッとした。
よく焼けた肉を頬張りながら、ご機嫌に海で何して遊んだんだ?と葵に聞く。
葵は相変わらず鷹島から目を逸らして火照る頬を頬杖でごまかしながら、答えた。
前までは、会話していても平気だったし身体に触れることなんて結構たやすいものだったのに、と嘆きながら。

それでも、久しぶりにする鷹島との会話はとても楽しい。
この辺で遊べる場所とか、川にいる魚とか、そういう他愛無い会話がとても。

のんびりした空気が流れる。
星空の下、バーベキューの音とみんなの笑い声。
今までここでしたどんなバーべキューより楽しいなんて葵は思いながら、いつもよりたくさん食べた。

最後によく冷えたスイカを食べていると、テレビを見ていた啓太と祖母が戻ってきた。
啓太は一目散に葵の所へ駆けて行き、ぐいぐいと葵のシャツの裾を引っ張る。
なんだ?と視線を下げれば、きらきらした瞳を向けて、


「あおちゃん!明日一緒に遊ぼう!おれ、明日の夕方帰っちゃうから」

「えっ、そうなの?」


いつの間にか略称された呼び方(葵兄ちゃんからあおにいちゃんを経てあおちゃん)はもう気にしていないらしく、
葵は明日彼らが帰ってしまうことに驚いた。
せっかく鷹島とまた親しくなれたのに、とちょっと落ち込む。
けれどもそれを啓太に悟られないよう、元気に「おう!カニ見つけような!」と約束した。


「あきらも一緒だかんね!」

「あー?齋藤がいるからいいだろ…」

鷹島はおじちゃんと言われるのが嫌らしく、啓太に呼び捨てで呼ばせている。
小さい子に名前を呼ばれながら、その子を抱っこしている面倒見の良い鷹島に思わず葵は頬を綻ばせた。
明日は鷹島も無理やり誘って3人で川で遊ぼうと計画立てた。

しばらくすると、9時を過ぎてしまったことにユキが気づく。
ちょうど後片付けが終わった後なので、誠一や琴美を呼んでまとめて祖母と母の元へ向かった。


「今夜は本当にありがとうございました。ぜひまたご一緒させてください」

代表してユキが礼を言うと、彼女達は嬉しそうに「ぜひまたいらしてください」とニコニコしながら会釈する。
その様子をちょっと離れた所でぼんやりと眺める拓也と葵。
随分と美形一族だな、と拓也は呆れたように呟きながらゴミ捨て場に向かった。

確かに、よく見ればユキはとても鷹島に似ている。
と言っても、鷹島は男らしい顔つきなので目元とか雰囲気とかそのあたりだ。
だから啓太が鷹島に似ていると思っても仕方が無い。
鷹島の小さい頃の写真とか見てみたいなと葵はついつい鷹島のことばかり考えてしまう。


「あおちゃんまた明日なー!」

「おー、おやすみー!」

夜の道を5人ぞろぞろと手を振りながら帰っていく。
葵は啓太に手を振りながら、1番後ろを歩く鷹島をちろりと見た。
すると、ばっちり目があってしまい、何だか居たたまれなくなる。
切れ長の目は、葵をしばらく映すとご機嫌に三日月型に歪まれた。
じゃあな、と小さく口パクして鷹島は小さく葵に手を振ると、またしてもぐでぐでに酔っ払った琴美を仕方なくおぶって行ってしまった。

彼らが帰った後も、葵はぼんやりと1人夜空を見つめ続ける。
鷹島の笑顔を思い出すだけで、鼓動は早まり頬が火照る。1分なんてあっという間だ。
好きになりたくない、と願っているのに無情なことに自覚すればするほど鷹島のことを好きになっていく。

どうしたらいいんだ、と辛い気持ちになりながらも葵は嬉しくて頬を緩ませた。

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