23,
-------------


今年一番の猛暑日かもしれないと思えるほど、太陽のぎらついた光が浜辺へ降り注ぐ。
お盆シーズンになるとクラゲが大発生する恐れがあるためか、最後のチャンスと言わんばかりに海辺には沢山の人々。
家族連れ、小中学生の集団、出会いを求めた大学生などなど…様々な人でごった返し。

その中で、1番端の浜辺に葵たちはビーチバレーで遊んでいる。
男5人、女5人とちょうど良い人数で男女ごっちゃのビーチバレー。
と、言ってもネットも張っていないのでただのボール遊びと同様だ。


「葵ーちゃんと取ってよー!陸上部マネージャーでしょー」

「うっせー、臨時だしっ!」


しかしあまり球技が得意ではない葵。
ましてやふわふわしたボールをとるなんて難しい。
遊び好きの葵が、陸上部の合宿に参加したと海に来て知った友人たちにバカにされながら奮闘した。

そう、葵は陸上部の合宿が終わって2日後、計画していた海に遊びに来たのだ。
陸上部の合宿が終わった後、2日の疲れがどっと出たのか1日程動けずにいた葵。
しかし楽しみにしていた、友達と女子と海へ行くということもあり1日寝込んで沢山食べて何とか復活したのだった。

拓也にムリはするなと言われたが、ひと夏の思い出はムリをしてでも作りたい。
出かける前に栄養剤を飲んでから、電車を乗りついで葵はみんなと海へやってきた。



「もうっ、優子ったら水かけないでよー」

「いいじゃん涼しいでしょー?」

ビーチバレーを終え、適当に海で遊び始める女子達。
可愛いどころが集まってきてくれたおかげで、その可愛い水着姿が輝く。
やっぱりピンクのビキニは可愛いな!なんて葵はデレデレしながら自分も海へ足を向けた。
すると、

「隙アリアリー!!」

2人分の同じような声と共に、葵の腰に衝撃が走る。
どん!と思い切り押され、葵は女子の水着姿に見とれていたために構えることが出来ず、そのまま海に落ちた。
水面に思い切り顔を打ちつけ、痛みに悶えつつ海水のしょっぱさにも悶える。
けらけら周りの笑い声を聞きながら、犯人に向かって思い切り海水をかけた。


「渚…!彰人…!テメーらこのやろう!」

「きゃー葵が怒ったぁ!」

高平兄弟は反省することもなくケラケラ笑いながら、葵から逃げるように浜辺を走る。
そんな3人を微笑ましく竜一含む他の方々は眺めた。
そろそろ昼飯食おうぜーと竜一は声をかける。もちろん昼食は海の家で焼きソバだ。
夏の浜辺に香る焼きソバソースの香ばしい匂い。
ちょうどいいソースの旨みと、時折口に入る紅しょうがのちょっとした刺激がマッチしてそれはもう夏のご馳走。
縁日のものとはまた違う美味しさを安易に想像でき、葵と高平兄弟はピタっと足を止める。

「よーし飯食おうぜ!」

賛成ーと女の子達も手を挙げて葵に賛同した。
きゃっきゃとアイス食べたいだのかき氷だの甘いもので盛り上がる女子は可愛いものだ。
ああ、優子ちゃん可愛いなぁなんて葵は早速他校の女子に目を付けながら、財布を持って海の家へと足を進める。
もちろん早速優子の隣を意識して歩き、時折話しかけながら。
そっちの高校はどんな感じなの?とか、バイトしてる?とか他愛無い会話である。

人を掻き分けながらようやく辿り着いた海の家。
やっぱり案の定めちゃくちゃ混んでいて、焼きソバをゲット出来るのには時間がかかりそうだ。
葵たちはげんなりと肩を落としながらも、お腹は空いているのでとりあえず並ぶ。


「うー、腹減ったー」

「ねー、私も。がんばろ?」

「がんばる!」

弱音を吐いても、優子はポジティブシンキングなのか元気付けてくれた。
がんばろ?と小首を傾けた様子はもう可愛くて仕方ない。
更に同時に揺れた胸に葵は男としてラッキー!と心の中でガッツポーズ。
話していれば、きっといつの間にか順番が来るだろう。
そう決めて、葵は優子だけでなく周りに並んでいる竜一や他の友人と喋りながら待つことにした。

しばらくして、葵の思惑通りあっという間に順番が回って来た。
葵は焼きソバとおにぎり。
本当は焼きソバだけでいいかと思ったのだが、体力をつけて夏ばてを解消するためにもう1品。
わざわざ自分達のスペースに持っていくのはめんどうなので、テイクアウト可なのだが海の家の中で食べた。
みんなで食べるご飯は美味しく、ちょっとばかし夏ばて気味の葵もぺろりとそれらを平らげる。
もちろん、こんな時もお目当ての優子の隣は譲れない。

食べ終えて、少しばかり話した後早速また自分達のスペースに戻ることにした。
比較的涼しい海の家から出て、また灼熱の浜辺へ出るのはちょっと気が滅入る。
けれど、まだまだまだまだ遊びたいので葵たちは早速また人を掻き分けて海の家を出た。

またギラつく太陽に肌が晒される。
このままじゃ真っ赤になってヒリヒリするな、と葵はうげっと顔を歪めた。
恥ずかしいけれど、岩場の影とかに隠れて再度日焼け止めを塗ろうと決める。
さて、早速戻ろう。
葵がそうみんなに言おうとした、その時。


「あれ…、鷹島先生じゃね?」


渚が心底驚いた顔をして、海の家に近い所の場所を指差した。
鷹島、という単語に葵はどきんと心臓を跳ねさせる。
しかも、ここに居るかもしれないだなんて思うだけで冷や汗に近いものが流れた。
見間違いであってくれ、と何故か祈りながら葵は渚の指差した方向を見る。

赤とオレンジの大きなパラソルの下。
ビニールシートの上で、暑さから逃れるように胡座をかいて飲み物を飲んでいる男性。
やれやれ、と言った具合に溜息を吐いて汗を拭っている仕草。
ウルフベースの黒髪短髪に、筋肉質のスタイルの良い体つき。キリっとした横顔。
それは、どう見ても。


(…嘘だろ…!?)


鷹島、本人だった。
他校の女子達も渚の指差した方向を興味津々で見る。
なんてイケメンなんだ!と言わんばかりに、渚や竜一に「え!?先生なのー!?ほんとに!?」と情報を得ようと必死だ。
葵も、優子に「先生なのー?」と聞かれたが呆然として応えられない。
風呂場でも見たが、鷹島の上半身はやっぱり綺麗に筋肉がついている。
めんどくさそうにしている眼差しがこちらを向いたらどうしよう、と葵は鼓動を早くさせた。
不安半分、期待半分。

ふと、鷹島がいたことに動揺しすぎて忘れていた初歩的な疑問を思い出す。
鷹島は一体誰とここに来ているのだろう。
27歳の成年男性が、友人達とつるんで来ることなどあるのだろうか。
その予感は、鷹島に近寄る影によって明らかになった。



「なーなー!見てー!コンブ拾ったー!」


真っ黒に日焼けした幼い手が、一生懸命大きなコンブを持って走り寄って来る。
5歳児くらいだろうか、

鷹島によく似た男児が、鷹島にきらきら眩しいばかりの笑顔を見せて飛び込んでいた。
鷹島は今まで見せた事の無いようなくしゃっとした笑顔で、ちょっと困りながら、

「おーおー、啓太お前…でっけぇの持ってきたな…凄いな」

なんて言いながら、啓太という子どもを抱っこする。
啓太は鷹島に褒められたことが嬉しいのか、にへっと笑ってこんぶを弄りはじめる。
どこからどう見ても、仲の良い親子。
鷹島のことを知らない女子たちは、「なんだ結婚してたのかー」と残念そうに俯いた。
だが、鷹島のことを知っている男子たちは「いや、聞いたことねーけど」と戸惑う。
1人を、除いて。


葵の目の前が、白黒に点滅する。
あまりの衝撃に心が追いつかず、ひたすらその映像だけを見ていた。
けれどもまだショートはしていない。
必死に、鷹島が以前独り身発言をしていたことを思い出して、あれは親戚とかだと頑張って納得しようとした。
灼熱のはずなのに、葵は震えが止まらない。ビリビリと脳みその奥が痺れ始めた。

すると、また1人鷹島のいるパラソルへ人が入ってきた。
その人を見た瞬間、葵の心は完全にショートする。


「彰ぁー、お腹減ったぁー!あたしナポリタン食べたい!」


マリンボーダーのビキニ、スカートがまた可愛らしさを目立たせている水着を着た、水着に負けない位可愛らしい女性。
鷹島に甘えるように、この暑さだというのにべたべたと抱きつく。
ふわふわの長い髪が鷹島の汗ばんだ身体に張り付いているのが、少し離れていても見えた。

目の前の景色が止まった、と葵の目には映った。
全身が冷えた感覚に陥る。
どうして、鷹島に家族がいるのかとか、それは果たして真実なのか、とか。
思うよりも葵の体が勝手に動いた。
逆方向のどこともわからない場所に、葵はみんなと来ていたことも忘れて走り出す。
これ以上見ていたら、泣きそうになったから。それが、何でとか考える前に葵は海へと飛び込んだ。

- 59 -


[*前] | [次#]

〕〔TOP
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -