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風呂から上がって、髪が乾き始めた頃。
部員達は胸を躍らせながら、近くにある少し薄気味悪い雑木林の前に集合した。
鬱蒼と茂った木々は、夜になると姿が薄っすらしか見えず何だか君が悪い。
生暖かい風が緩やかにそれらを鳴らす。

葵はあまりホラーが得意ではない。
むしろどちらかと言えば苦手。
お化け屋敷のような感覚ならば良いのだが、リアルな幽霊は怖い。

出ないよな?と半ば不安になりながら、葵は高木の隣で冬香の説明を聞く。


「はーい、じゃあクジ引いてペアの人と祠まで行って帰ってくること!」

ルールは簡単。
この先には小さな祠があるらしく、それに礼をしてくればいい。
それだけの事だ。特に墓場がある訳ではないので、単なる暗い中の度胸試しだ。
因みに脅かすメンバーはこのクジを引く前に、クジで決めた。
なので、部長や女子の一部は見当たらない。

「あー、俺脅かす方が良かったなー」

そっちのが面白そうだし、と葵はぶつくさ言いながらも素直にクジを引く。
簡単にチラシの裏を使って作った四つ折の紙を1枚取る。
出来れば女子がいいなーなンて現金なことを期待しつつ、クジを開く。
番号は「7」ラッキーを代表する数字だ。
しかし全体的な順番も指しているので、最後から2番目という微妙な順番。

だが、問題は相手。
誰だろう誰だろう!とワクワクしながら、「7番だれー?」と特に女子が集まっている所に声をかけた。
しかし、女子は誰一人「はーい」なんて言わない。
むしろなぜかクスクスと笑っている。
もしかして無視されているのだろうか、と葵が変な心配をしていると真後ろから声がかかった。


「…お前かよ…」


溜息交じりのその声は、鷹島のものだった。
葵はその声を聞くや否や、ダッシュで冬香の元へ。
いきなり逃げられた鷹島はさすがに「何だお前!?」と慌てた。
しかし、葵はというと、

「坂本さん!もっかいもっかい〜!
俺やだ、鷹島ちゃんとなンて…!
だったら結城さんとか荒井ちゃんとかさぁ〜!」

冬香に再度クジを引かせて貰うよう頼みまくっていた。
しかも、早速陸上部の可愛い所に目をつけているらしい。
結城と荒井は2人とも困ったように笑いながら、自分達のペアの男子の隣に向かった。

「ダメだよ、1回だけ!」

その上、冬香は拒否。
葵はしおしおとその場にへたり込んだ。
肝試しなんて、ラブのチャンスを鷹島と過ごすなんて葵にはありえないからだ。
だがしかし、葵の背後にはラブではなくデッドのチャンスが待ち構えていた。
がしっ!と思い切り頭を掴まれる。一気に握力をかけられ、久々の痛みに葵は悲鳴をあげた。

「ぎゃあああ!痛ぇー!」

「このチャラ男が…!早速狙ってンのかお前は!」

大人しくて部活には一生懸命な結城と荒井を、チャラい葵にそそのかされてはたまらない。
実際葵は唆すほどの実力は持ち合わせていないのだが。
葵はバタバタと暴れて、何とか握力から逃れようとする。


「鷹島ちゃんと行くより絶対有意義だしっ!」

「そのままそっくり返すぞ!」


ぎゃあぎゃあ喧嘩する2人を、脅かし役以外の部員達は微笑ましい目で見た。
以前まではどうしようかとオロオロした者も居たのだが、もうすっかり当たり前の風景である。
それほど喧嘩している訳でもないのだが、2人が絡んでいるのは何だかごく自然のように思えるのだ。
そんな風に思われていると知らないのは本人達ばかり。

しばらく言い合う2人を放置して、皆肝試しの準備を始めたのだった。


夜も更けて、遠くからフクロウの鳴き声が木霊する。
それが更に薄気味悪さを助長させているため、葵は恐怖を忘れるために前に居る高木の肩を叩いた。
因みに、葵達の前が高木と冬香である。
不思議なことに、あれだけ言い合いをした2人がペアなのだ。
これは騒がしくなるな、と葵は思いながら、


「いいなー高木はー、俺なンて先生だぜ?」

肝試しまで先生同伴ってどういうこと!?と自虐的にツッコミを入れる。
しかし、いつものような高木のふんわりした返答が返って来ない。
不思議に思って、もう一度名前を呼ぶとハッとして振り返る高木。

「あっ、ごめんぼんやりしてた!なに?」

「ん?先生と同伴が嫌だって…つか…何か顔色悪くねぇか?」

振り返った高木の顔色がどこか青白くて、葵は心配する。
もしかして身体の調子を悪くしてしまったのではないかと。
しかし高木は、ビクリと肩を一瞬動かすが、すぐにいつもの爽やかな笑顔を作った。

ひらひらと片手を振り、

「湯冷めしたかな?大丈夫だよーそれより、鷹島先生とそんなに一緒なンて運命じゃん?」

自分の話を逸らして、葵が嫌がりそうな事を言った。
案の定、葵はゲッと声を漏らして顔を歪ませる。
俺の赤い糸はもっと可愛い子に!と、アホなことを言いながら、隣の鷹島からちょっと離れた。
それを聞いていた鷹島は、「アホなこと言ってンじゃねー」となぜか高木ではなく葵の頭を軽く叩く。
また言い合う2人を、高木はケラケラと笑いながら見るふりをして隣に座る冬香に少し近づいた。

こそこそ耳打ちをし始める2人。

傍から見れば、美男美少女が内緒話という何ともドラマの様な光景だ。
だが、2人の性格を知っている鷹島と葵は言い合いを止めて2人をキョトンとした目で見る。
ついつい葵と鷹島も内緒話を始めた。


「やっぱ、あの2人って付き合ってるンすかね…?」

「あー…どうなンだろうな…そうだと聞いたことはねぇけど」

陸上部内で付き合っているのは何人か居るみてぇだけど、とつい暴露する鷹島。
意外と顧問の立場であるのに、情報は入るものだ。
特に部活内恋愛は絶対禁止という訳ではないので放置しているらしい。

「えっ、誰と誰?」

こういう事には興味津々なお年頃な葵。
ずいずいと鷹島に近寄って、更に情報を得ようとした。
気づけば、ぴったりと腕がくっついている。
お互いにTシャツなので、直に肌の暖かさと感触が伝わった。
鷹島はちょっと気にしながらも、特に拒否する理由も無いのでそのまま、


「確か、秋田と春野がそうだったっつーのは聞いたな…」

暴露…という訳でもないが葵に情報を与えた。
その情報を聞いた途端、葵は目を丸くしてわなわなと震える。
なぜなら秋田というのはこの陸上部部長である。
そして、春野は1年生で結構人気のある可愛らしい女子だ。

まさか、自分をあんなにからかってきた部長に可愛い彼女がいるとは。

「くっ…羨ましい…!」

爪を噛むふりをして悔しがる葵。
どれほど飢えてるんだと鷹島は呆れながら、もうすぐ自分達の番なので立ち上がる。
終えた人から回って来た懐中電灯を受け取り、ちゃんと点くか確認した。

葵もそれを見ながらゆっくり立ち上がる。
少し口を尖らせて。なぜならば、
先ほどまで触れていた腕に残る鷹島の体温が、変に気になっていたのだ。
何故か忘れられない体温と感触に、首を傾げながらソコを指の腹で軽く撫でる。


あまり焼けない葵も、今日は少しTシャツ焼けをした。
触れていたところは、布に隠れていたためか周りより少しばかり白い。


「よし、高木達が行って5分経ったから俺らも行くぞ」

ぼんやり腕を眺めていた葵に話しかける鷹島。
時間短縮のために、帰ってくるのを待つのではなく時間差で行くのだ。
葵はそうだったと思い出しながら、慌てて鷹島の隣に並ぶ。

「ビビって腰抜かすなよ」

「し、しねぇし!俺、ホラーとかマジ平気だし」

からかってくる鷹島に、ムキになる葵。
平気と言いつつ、視線はあちこち泳いでいた。
そんな分かりやすい反応に、ついつい鷹島はニヤニヤしてしまう。

「ふーん…」

「…なにニヤニヤして…!」

案の定、ムキになったことがバレた葵は更にムキになった。
むむっと口を尖らせて、鷹島から懐中電灯を奪う。
俺がリードするし!と言いながらも、先ほどより鷹島との距離を近くする葵のバカな行動に、鷹島は更にニヤニヤした。
何てバカなのだろう、と思いつつそれが何だか、可愛らしい。
薄気味悪い雑木林の中だというのに、それすらも忘れる程。


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