17,
-------------


実は、陸上部部員はそれほど多くは無い。
男女の比率としては男子の方がもちろん多いが、せいぜい2,30人前後である。
陸上部全体で40人いるかいないかの瀬戸際。

元々それほど大きい高校ではないので、大体1クラスに4、5人程度。
その上、葵達の通うこの高校はどちらかといえば野球とサッカーが強い所だ。
バレーに至っては強豪高校になりつつある。そして吹奏楽も大人気。
よって、あまりまあまあな成績の陸上部にはそれほど部員が集まらないのだ。

それを踏まえての、共同浴場である。
学校や少年団・ボランティアなどの合宿によく使われるため、浴場はとても広い。
普通に銭湯として運営出来るくらいだ。
もっと部屋に力を入れればいいのに、と毎年皆思うほど。

だが、1名程はしゃぐ男子生徒がいた。


「うはー!広い…!ってか色んな種類あんじゃん?」

「…齋藤君…そンなに種類無いぞ…」

葵だけが、久々の広い風呂で浮かれていた。
元々あまり共同浴場に旅行へ行かない家庭(ホテルばかり)なのだ。
部活は文化部ばかりだし、幼少期の頃はあまり記憶が無い。
中学の修学旅行も、結構リッチな中学だったので海外の姉妹校へ行った。よってホテル。
なので初めてに近いのだ、みんなと一緒に大きな風呂に入るのは。

しかし、おかげで共同浴場のルールが良く分からない。
男同士で恥ずかしいも何も無いが、親しき仲にも礼儀ありと躾されてきた葵。
やっぱり大事なところを丸出しなのはちょっとダメかな、と思って細い腰にタオルを巻いた。
と、言うよりは先ほどの電気あんまのせいで腫れているのではないかという危惧の方が大きい。

まず身体を洗ってしまおう。
そう思って、いそいそと椅子に座ってシャワーの出し方を考えていると


「なーにわざわざ巻いてンだよ?男だったら丸出しで行け!
あと、湯船にタオル入れンなよ?」

隣に座った部長が、悪戯に笑ってぐいぐいと横からタオルを取ろうとする。
まさか取られると思っていなかった葵。
あ、湯船に入れちゃダメなんだーと理解した後、一生懸命それを阻止した。

「ぎゃー部長!やめ、腫れてるかもだし!」

大事にしないとーとわざとらしく泣きまねする。
しかしそこで安易に引き下がっては面白くない。
彼は、自分のシャワーを水にして葵の下半身にぶっかける。
いくら夏場とはいえ、冷たい水を下半身にかけられて驚かない訳が無い。
葵はまた「ぎゃー!」と悲鳴をあげて、すっ転んでしまった。

後頭部を打たなかったとはいえ、背中を強打。
あまりの痛みにぶるぶる震えてしまった。今日は厄日なのだろうかと思うほど。


「わ、わりぃわりぃ齋藤くん…大丈夫か?」

さすがに心配した部長は、立たせてやろうと手を貸す。
すっ転んだおかげで、必死に隠していた大事な所が丸見えだ。
大浴場で、M字開脚アソコ丸出しは同性から見て情けない。
特に隠すものでも無いが、あまり立派なものでは無いなとぼんやり失礼なことを思っていると、

「…このー!仇しちゃる!」

葵はおふざけに照れ隠しを乗せて、自分もシャワーの水をぶっかけ始めた。
あまりの冷たさに、すっ転びはしないもののたじろぐ部長。

「仇って何だ!?ってつめてー!!」

楽しそうにわいわいする2人を、げらげら笑って見る周囲。
すると、湯船に浸かってのんびりしている高木が、声を反響させてアドバイス。


「ほらー、風呂で騒ぐと…この後入ってくる鷹島ちゃんに怒られるぞー」

高木の言うことは、確かな未来を予測していた。
騒いでいた皆は一瞬ぴたっと動きを止める。最早息まで止める者も居た。
鷹島の怒りは段々慣れては来たが、「この年で風呂ではしゃぐな!」と怒れられるのは勘弁だ。

すると、タイミング良く脱衣所と風呂場を隔たるドアが開いた。
皆、鷹島の「うるせーぞ!」という声を待ったが、全く逆の声が風呂場に響く。


「こらこら、風呂場で騒ぐのは迷惑だから止めなさい。
あと、ちゃんと肩まで浸かるンだよー」


のんびりした相澤の口調に、皆拍子抜け。
しかも鷹島と違って、大分ふくよかな身体なので何だか更に力が抜けた。
葵は、相澤のぷよぷよした腹を物珍しそうに凝視しながら、


「…鷹島先生は?」


と、聞いた。
葵についで、皆も「鷹島ちゃんはー?」と聞きまくる。
相澤はかけ湯をしながら、少し困ったように笑ってチラリと脱衣所を見た。
そこにはギクリと肩を揺らす長身の影。どう見ても鷹島である。
どうやらドアの前から動けないらしく、一向に入ってこないのだ。

思わず、1人の男子が声をかける。

「鷹島ちゃんどったのー?痔で入れないとかー?」

途端、みんなの笑い声が風呂場内に大音量で響いた。
葵も相澤もカラカラ笑ってしまう。あの男前で少々横暴な鷹島が、そんな怪我を負っているなんて。
さすがの鷹島も、ありもしない事でからかわれては黙っていられない。


「ンな訳ねーだろ!うるせーから静かになるまで待ってたンだっつの!」

があっと怒りながら、思い切りドアを開けてずかずかと入ってきた。
しかし腰にはタオルが巻かれている。
やっぱりそうなのではないか?と周りが冷やかしたてるが、見たいのかお前らはと一蹴。
2年生は去年一緒に入っているので鷹島の男として非の無い身体付きは知っている。

ましてや、何を食べればソコは立派になるの?
と言わんばかりのものをわざわざ見たくも無い。いっそ良い配慮だ。

だが、鷹島がタオルを巻く理由はそういうことではない。
チラリと葵を横目で見れば、いそいそと身体を洗っていた。


(…思い出したらマズいしな…)


そう、葵が鷹島の股間を見てあの時の恐怖が蘇らないようにするためだ。
先ほどちょっと手を出しそうになって、夕食中ものすごく反省した結果。
鷹島は普段タオルで隠すなど面倒なことはしないのだ。

とりあえず葵から離れて身体を洗い、湯に浸かってさっさと出よう。

そう決めて1番端で、最初に髪を洗い始めた。
特に髪へのこだわりなんて無いので、大浴場に付いているリンスインシャンプーで洗う。
とにかく急ぎたいので、ガシガシと乱暴に洗った。
すると、隣に座っていた高木が


「先生そンなに急がなくても」

と、言うが鷹島は「色々あンだよ」と適当に返して泡を流し身体を洗う。
本当はゆっくり風呂で疲れ取りたいのだが、仕方が無い。
葵の全裸を見て興奮しない自信はあるが、全く興奮しないという自信は無い。

現に、葵たちがいる方向から聞こえてくる声が気になって仕方ないのだ。


「…つーか齋藤君細くね?てか白っ!」

「俺焼けねぇンだよー!細いのは…これから頑張るし!」

「うわ!腰折れンじゃね?折って良い?」

「ダメに決まってンだろがっ!うわっ、くすぐった!」

部長と2年生の部員1人が葵の線の細さに驚きつつ、触っているらしい。
確かに、筋肉が付いている陸上部部員から見ればその細さは驚きだろう。
しかもガリガリしている訳ではないのだ。気になるのも道理かもしれない。

しかし、理不尽なモヤモヤと怒りを覚える鷹島。
非常に見たいが、見てはいけない気がして身体を洗い終えるとさっさと湯船に浸かった。


「…な、なんだか鷹島先生急いでますね…」

「…いえ、別に普通ですよ」

相澤に図星を指され、一瞬肩を動かすが知らないふり。
しかし、急がなければならないのだ。
葵にあのことを思い出させる訳にはいかないし、この悶々した状況で葵の全裸を見るのはキツい。
葵も男の身体をしているので、そんな簡単に鷹島がムラッとする訳ではないのだが。

だが、鷹島の薄々感じていた嫌な予感は的中する。


「おお、湯船広っ!」

身体も髪も洗い終えた葵が、頼りなくタオルでちょっと前を隠しながら湯船に近づく。
全裸を見るのは初めてだが、予想以上の線の細さと腰のくびれに鷹島は凝視してしまった。
この風呂場にたゆたう湯気のようにもやもやした感情が全身を包む。

そんな鷹島の下心なんぞに気づかない葵は、


「うっはー…疲れが取れますなー」

ばばんがばんーと、恐らく温泉のテーマソングだが今ひとつ間違っているフレーズで歌う。
しかもふざけているのか真面目なのか、タオルを折り畳んで頭の上に乗せてみたり。

もやもやしていた気持ちが一気に呆れに変わった鷹島。

「…オッサンかお前は…」

思わず呟けば、葵に聞こえていたらしく、


「鷹島ちゃんに言われたくねーし!」

ばしゃばしゃと音を立てて葵が鷹島の隣に突進してくる。
更にお湯を手ですくって鷹島の顔にかけまくった。
さすがの鷹島もひるみ、「どわっ!?」と声を上げてしまう。
それが面白かったのか、葵はカラカラ笑って、

「イエーイ、びっしゃびしゃー」

なんてふざけてみた。
心配損か、と鷹島はその笑顔に呆れる。
ついでにやり返しと言わんばかりに、たまたま流れてきた洗面器でお湯をすくって頭から葵にお湯をぶっかけた。

「うわ!?」

「お前髪長いな」

湯船で仲良しそうにふざけあっている2人を、先ほどまで鷹島の隣に居た相澤は不思議な気持ちで眺める。
何だか、いつのまに2人は仲が良くなったのだろうか、と。

- 53 -


[*前] | [次#]

〕〔TOP
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -