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もぐもぐと、美味しそうに鶏のから揚げを食べる葵。
家庭的な味が気に入ったらしく、夏バテな事も忘れて次々に料理を平らげた。
臨時マネージャーを初めて1日目は、相当疲労して夕飯も抜いた位だったのに。
徐々に体力が付き始めているのだろう。
マネージャーなので筋肉は付かないが。

そんな葵を見ながら、高木もご飯を食べつつ話しかける。


「そういや、風呂上がった後寝る前にちょっとだけ肝試しするって聞いてた?」


それは、合宿の密かな楽しみであるプチイベントのこと。
葵は練習が始まる前に冬香に少しだけ聞いたので、素直に「ちょっとだけ聞いた!」と答えた。
すると、周りに居た男子達もその話が耳に入るやいなや寄って来る。
特に彼女募集中の男子達が。
そのうち1人が、葵の肩を叩き話しかけた。因みに葵はその人とまだ一度も会話したことが無い。


「あれ、くじ引きなンだよなー…マネージャーが作るンだよ毎年」


それは知らされてなかった葵。
夕飯の後、冬香に呼び出されそうだなとげんなりしながら「そうなンかー」と答えた。
すると、途端に彼女ナシな男子達がわらっと葵の元に集まる。
葵が目を丸くしていると、彼らは両手を合わせて、


「なー、齋藤君頼む!森川ちゃんと一緒にしてくれ!」

「俺は…秋山と…!」

「誰でもいい!女子とが良いンだ!」


と、必死に頼み込んできた。
どうやら、比率的に男子の方が多く、下手をすると男子同士のペアになるらしい。
しかしそれを葵がどうにか出来るわけが無い。

陸上部に臨時マネージャーとして3日程しか経っていないのだ。
そんな権限は、持ち合わせていない。気持ちは痛いほど分かるけれども。
そして一番の脅威である冬香に、「くじは平等!」と怒鳴られる様を想像して、葵は身震いした。

気の強い女子にはよく関わってきたが、それらとはまた違った気の強さがある冬香。
そんな彼女に、葵が逆らえる訳が無い。


「…ごめん、俺には無理だ…坂本さんに逆らえねーよ…!」


俺もしたいけどさー!と、謝りながら素直に言う。
手を合わせて必死に謝る葵が何だか珍しくて、部員達は一瞬口を噤んだ。
チャラいので「マジか!やっかな〜」とかふざけると思っていたのだ。

すると、高木が葵の肩をポンポンと叩く。


「だよなー、冬香は気ィ強いからなー」


はぁーとわざとらしく溜息を吐いて、高木たちから斜め前に座っている冬香を見た。
友人達ときゃいきゃい喋っていたのだが、その声は筒抜けだったらしく。
冬香は高木に、見たことも無いような睨みを効かせてきた。
隣に居た葵は思わず身震いする。


「遼平…誰が気が強いじゃじゃ馬女だって!?」


ギギギ、と歯軋りを立てて今にも立ち上がらんとばかりに殺気を放つ。
あまりの恐怖に、葵はぶるぶる震えてつい隣の高木の後ろに隠れた。
原因は高木だというのに。
その原因はケラケラと笑って、


「冬香以外に誰がいるンだよ?
藤田さんも中山さんも大人しくて女らしいじゃないか」


更に怒りを掻き立てる。
葵は「これ以上怒らせンなよ!」と高木に耳打ちするが聞く耳持たず。
周りに助けを求めようとしたが、周りはいつものことだと知らん顔。

しかし、ふと気づく。
高木は女子に意地悪を言う奴ではないし、冬香も気が強いと言っても冗談であれほど怒る人ではないはずだ。
そのうえ、何だか親しげに名前を呼び合っている。
高木も冬香も、普通異性には苗字呼びなのだ。

葵が不思議そうに2人を見つめていると、後ろから先ほどの男子が葵に耳打ちをする。


「あの2人、幼馴染なンだよ…いっつもあぁやって喧嘩してるけどな」


新たな事実に、葵は目を丸くする。
何も知らずに見れば、美少年美少女の絵になる幼馴染。
だがしかし、ぎゃあぎゃあ言い合ってひどい有様だ。絵が台無しである。

「へぇ…仲悪いのか?」

恐らく、高校までずっと一緒だったのだろう。
嫌気が差して、あんなことになっているのかもしれないと葵は予想した。
しかし、中学からあの2人のことを知っている男子は嘲笑しながら、


「むしろ逆だろ?何だかんだいっつも一緒に帰ってるしさー」

呆れたように言った。

「えっ!?…ああ、そういえば…!」

葵はハッと気づく。
自分と同じ時間に終わる冬香が、チラチラ校門辺りを見ていた気がするのだ。
部員の方が早く終えて帰るので、友達でもいるのだろうかと思っていた、が。
確かそこには携帯を弄って、校門に寄りかかる高木がいたのだ。

未だに言い合う2人を見て、葵は途端ニヤニヤ顔をゆがめ始める。

「何だそういうことか…へぇ、高木が彼女作らない理由って…」

ふーん、へぇーと恋愛を学び始めた中学生かのように冷やかし始めた。
葵の反応に気づいた高木と冬香は、ピタリと喧嘩を止める。
否、方向を変えた。


「そンな訳無いだろ齋藤くん!こんな品も無い女、俺は嫌だよ」

「うるっさい遼平死ね!齋藤君…冗談も大概にしてよ!?」

怒りが全方向、葵に集中したのだ。
いらないことを言ってしまった、と葵は口を手で塞ぐももう遅い。
後ろから高木に羽交い絞めされ、前から冬香に電気あんまを食らった。
高木はそれほど力を入れていないので苦しくは無いが、おかげで逃げられない。

初めて女子に股間を攻撃されて、羞恥やら男の沽券がズタボロやら何やらで大ショック。
あまりの激痛と共に、元々敏感な身体もあってか性的刺激も同時に全身を駆け抜けた。
みんなの前で、大変おかしな状況になる複雑さも混じって、狂ったように暴れる葵。

「ぎぃいぁあああ!やめてぇえ!あはっ、うわははははっ!?」

「これに懲りたらもう言わないこと!分かった?」

「わかりましたわかりましたぁああ!やめ、しぬ、マジでっ!」

冬香の電気あんまは容赦が無い。
普通、若干性的刺激も含まれるのだが最後の方は最早痛みばかり。
新たな去勢方法かと葵は自分の息子を心配しつつ、やっとこさ解放された。

「…うう、何かすげーヒリヒリする…」

ぐすぐす泣きまねをしながら、葵は逃げるように2人から離れた。
しかもまだ2人は喧嘩をしている。大概にして欲しいと葵は心から思った。
すると、葵が後ずさりして逃げた先に誰かの脚が当たった。
葵が誰だろうと見上げると、そこには鷹島の姿。


「坂本!高木!いい加減ケンカは止めろっつってるだろうが!
あと、全員そろそろ食い終われよー」

風呂の時間がもうすぐなので、早く食い終われと指示。
部員達は慌てて残りを食べ始めた。もちろん、高木と冬香も。
どうやらこのケンカは本当に毎度の事らしく、みんな先ほどのことは無かったかのようだ。
葵も先ほどのことは忘れようと思いながら、まだ残っているご飯を食べるために席に戻ろうとした。
そのとき、後ろからとんとんと肩を叩かれる。

振り向けば、屈んだ鷹島が心配そうに顔を歪めて、

「大丈夫か」

と、聞いた。
葵は何だか鷹島に心配されるのが嬉しくて、ふわふわする。


「何とか…まだヒリヒリすっけど大丈夫ー」

「…そうか、」


あの2人がケンカしてる時には絡むなよ、と忠告して鷹島も元の席に戻った。
葵は少しだけ鷹島のことをじっと見ていたが、すぐに残っている食べ物を食べるためにテーブルに視線を落とす。
先ほど、少しギクシャクしたというのにこんな簡単に楽になるなんてと不思議がりながら。

そんな葵を、少し遠くに座る鷹島はぼんやり見つめる。
ちょいちょい視線を落として、葵の下腹部が気になっているらしい。
先ほど、葵が冬香に電気あんまをかけられて、絶叫・抱腹絶倒していたが、鷹島はしっかり確認していたのだ。

一瞬だけ、あの夏休み前に見た表情をしたことを。
眉を寄せて、頬を染めていた。とても一瞬だけだったが。
電気あんまは確かに性的な刺激も与える。
しかしそれをさせないように冬香はわざとキツくしたのだ。

だが、恐らく一瞬だけ会陰部を擦ったのだろう。
あそこから得られる快感は、前立腺の快感。…以前、鷹島が葵の体に開発してしまったものだ。
さすがにそこまで知らない鷹島は、単に葵がマゾ体質だからだろうと納得。


(…納得すンな俺!…ちくしょう…なンだって今日アイツ色っぽ…くねーよ!アホか俺!)


何だか、合宿が始まってから葵に触っている気がする。
その上反応がいちいち色っぽいというか艶かしいのだ。
疲れと、夏という季節のおかげかムラムラしてくる鷹島。
早く風呂に入ってさっさと寝たい、とひたすら願った。

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