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夕陽が山際に向かって沈んでいく。
気づけば18時を過ぎて、そろそろ宿へ戻らなければならない。
夏なので、19時近くとも明るいのだ。

冬香は時計を確認し、鷹島の下へ走り寄って打ち合わす。
一言二言の会話だが、顧問とマネージャーの関係は部員よりも深いものがあるのですぐ通じ合った。
そして、冬香は持ってきた拡声器を使って散り散りになっている部員たちに呼びかける。


「じゃあ、ダウンとストレッチしてくださーい!」


その言葉を聴き、各々適当に返事をしてゆっくりトラックを走り始めた。
葵はみんなの様子をチラチラ見ながら、散り散りに放って置かれたタオルを回収し始める。
大分湿っているものが多く、みんな汗だくになりながら頑張っているなと肌で感じた。

しばらくして、ダウンとストレッチが終わり、宿へ戻ることになった。
葵たちは荷物やら何やらあるので少し遅れて戻る。
もちろん、顧問の鷹島と相澤は更に遅れてだが。
ひとまず宿に着いた者は、夕食の時間まで各々の部屋で待機。

鷹島より先に戻った葵は、1人部屋に着いた。
途端、ばたっと畳みの上に倒れる。そして、


「あー…疲れたー…」


と、ひとりごちながらゴロゴロと畳の上を転がった。
しかし大して広くも無いので、すぐに壁へ頭をゴンとぶつけた。額がちょっとダメージを食らった。
そんなことも気にせず、葵は疲れた身体を座布団に預けてちょっと休む。

夕食が終わったら、部員にマッサージをしなければならないのだ。
最初は痛がらせてばかりだったが、今では何となくコツを掴んだので出来る。
…と、本人は思っていたが。


(けど、昨日の夜に兄ちゃんにやったらばたばたしたしなぁ…)


そう、葵は痛がらせない方法を掴んだものの、今度は優しくしすぎてくすぐったいのだ。
しかし、他人を相手にしないとマッサージはなかなか練習できない。
自分の足や腕では難しいものがあるのだ。

葵はとりあえずやってみようと座布団に軽くそれをしていると、


「…?何やってんだ?」

タイミングよく、鷹島が部屋に戻ってきた。
夕食は宿が用意してくれるので、鷹島も葵と一緒にでも行くかと思っていたからだ。
葵の不思議な行動に首を傾げつつも、鷹島は彼の向かい側に座る。
すると、待ってましたと言わんばかりに葵は鷹島ににじり寄った。


「ンだよ?」


少しばかり、鷹島の心臓が跳ねた。

葵は目をきらきらさせて、


「なーなー!…マッサージの練習していいっスか!?」


そう聞きつつ鷹島の足をぐいぐいと引っ張った。
触るだけで分かる、太ももの筋肉の付き具合。
今でも長距離を時々走っているので、浮き上がった硬いそれに葵は驚く。
とっさに自分の太ももも触ってみるが、それらしきものは見当たらない。

(俺も欲しいな筋肉…)

とほほ、と落ち込みながらも、今はマッサージが最優先。
鷹島も走ったのでついでに良いだろうと葵は軽い気持ちで、やらせてくれと頼んだ。
しかし、鷹島はというと。


(…マジかよ…って、なんで俺こンなに動揺してンだ?アホか)


葵が鷹島の足に手を乗せて、ちょっとズボンの裾を引っ張る姿に動揺していた。
バスの中では、がっしりと手を掴んだのに。その時は特に動揺しなかった。
そんな自分に不思議がりながらも、特に拒否する理由は無いので、葵が望むとおり足を伸ばしてやった。

葵は待ってましたと言わんばかりに、鷹島の足を股に挟む。
本人は、固定しやすいようだが、足の持ち主はぎょっとして思わず足をひっこめようとした。
もちろん、葵の股間は擦れる訳であり。


「んっ…って、動かすなし!」


一瞬緩い快感が走って声を漏らす葵。


「あ、わりぃ…って、挟む必要あるのかよ」


重いだろ、と言い訳する鷹島。
葵は股に足を挟んで固定しただけなので、圧し掛かってはいないのだ。
大した重さは、無いはずである。
しかし葵は、言われたことを素直に受け取るアホなので、


「マジか…じゃあ横から…?」

「今日は別にそれでいい」


おとなしく横からマッサージしようと思ったが、なぜか鷹島は間髪いれずそんなことを言った。
自分でも拒否した理由が分からない鷹島は、疑問を浮かべる。
そんな疑問も葵は知らず、素直に「了解〜」とへにゃへにゃ笑って鷹島の太ももに触れた。
普通、太もも自体を触るマッサージは無い。

マッサージでまずそこか!?と鷹島が驚いていると、葵はぐっと力をいれた
しかし、


「…!!や、やめろっ…!」


柔らかい刺激すぎて、ものすごくくすぐったかった。
くすぐられてもそれほどバタバタしないはずの鷹島が、くすぐったさにぶるぶる震える。
しかし、葵はくすぐったいイコール爆笑と思っているので、


「え?痛ぇの?」


と勘違い。
鷹島はくすぐったさを必死にガマンしながら、


「い、いたくは、ねーけどっ…!離せっ…!」


葵の手から逃れようと身じろぐ。
しかし、意外と柔らかい太ももの感触にまだ触れていたいという下心であまり動けない。
身じろいで、震えて、歯を食いしばっている鷹島を見て、葵はまたしても勘違いをし始めた。
目を泳がせて、少し頬を赤く染めて呟くように問う。


「も、もしかして…感じてる…とか?」


ぴたり、と鷹島の動きが止まる。
不思議な沈黙が2人の間に染み渡った。気まずい感じの。
鷹島は、ふー…と息を吐いた後、軽く葵の頭にチョップを落とした。
いでっと葵が頭を抑える間に、葵を自分の足の間からどかす。


「アホ!くすぐってーンだよ!お前じゃあるまいし感じる訳ねぇだろが!」


お前下手なンだよ!とはっきり事実を突きつけながら、思わずデリカシーの無い言葉も同時に突き刺した。
俺が教えてやると言わんばかりに葵を押し倒して、うつ伏せにさせようとガッシリ肩を掴んだ。
マッサージするには、うつ伏せにさせるのが1番楽だから。
というか、普通マッサージするときはうつ伏せだ。
葵のように不思議な状態で普通はやらない。

しかし葵は、いきなりバタバタして、


「だったらそう言や良いじゃンか!つか、つか…!
…鷹島ちゃんのバカ!離せ!」


一生懸命鷹島の肩を殴って抵抗。
感じるわけ無い、と葵は感じやすいという遠まわしな言い方に言いようもない怒りが沸いたのだ。
それは、恥ずかしさから来る怒り。必死に逃げようと葵は鷹島の胸板を叩く。

しかし、肩を抑えられているために、大きく振りかぶれず軽いパンチばかり。
暴れるンじゃねえ、と鷹島は言いながらうつ伏せにさせるために背中に手を回した。

葵に言いようもない刺激が全身にぞわっと広がる。
鳥肌、と言っても気持ち悪さや恐怖でないもの。
それはじんわりと葵の自身へ、緩く伝わった。そんな自分の身体にも、恐怖。

葵の隙を突いて、鷹島は器用に座布団の上にうつ伏せにさせた。
そして、

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