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早速近くにある競技場に集合して、予定時間や気をつけることなどを一通り説明。
少しの時間も惜しいので、部員達は早速アップに取り掛かった。
競技場で練習できることはなかなか無い。
本番により近い環境での練習は貴重なのだ。

トラックを走り始める部員+鷹島を見つつ、葵と冬香は早速準備を始める。
記録に使うもの、ドリンク、タオル、フィールド競技の準備。
葵は合宿までの3日間もきちんと臨時マネージャーとして部活に参加していたので、もうしっかりとこなせている。
初めはおろおろして冬香に色々と指導されていたことがずっと前かのように。
やりたい事に間しては飲み込みの速い男なのだ。

そんな葵は、今回初めて走り幅跳びの手伝いに回ることになった。
学校では短距離チームのタイム測定か、スタート合図。
もしくは、タオル配りとドリンク補充。今回はそれももちろん行うが。

走り幅跳びの測定方法と、砂馴らしが基本的にすること。
しっかと体育の教科書と鷹島にこっそり聞いて予習したのでバッチリだ。

鼻歌を奏でながら、葵はご機嫌にトンボを持って走り幅跳びの所へ向かう。
すると、競技場の管理者と軽く挨拶を交わしていた冬香が、カラカラと笑いながら


「齋藤くーん!楽しみにしすぎ!まだ大丈夫だよ!いいからこっちー」

ドリンク作るよ!と呼びかけた。
確かにまだアップも済ませていないのに気が早すぎる。
やらかしたーと葵もカラカラ笑いながら、冬香の下へ急ぎ足で向かった。
仲良しな2人に、相澤は微笑ましそうに頷く。

親か、と冬香と葵は2人でこそこそと苦笑しながらそんなことを言い合った。
葵がドリンク作りにすっかり慣れたので、雑談しながら作業することも可能。
この合宿所の近くには綺麗な湖があるだとか、夜に肝試しする予定らしいだとか、そんな些細で楽しみなこと。




「齋藤君!計測の仕方は大丈夫だよな?」

「っす!…あの境から、カカトまで!」

「よろしいー」

陸上部部長の専門種目は、走り幅跳びである。
少々熱血で、スポーツ刈りの彼は臨時マネ葵にテキパキと指示を出した。
いくら慣れてきたとはいえ、このような本格的な競技場に来るのは初めてなのだ。
部長は葵と違うクラスとはいえ、葵と同じクラスの男子から情報はリサーチ済み。

何だかんだ彼も気に入っているらしく、葵がヘマをこいて皆から非難されないように何度も測る時の注意を教えた。


「おい部長ー、鷹島ちゃん化してるよー」

すると、別の部員からそんなからかいが飛んでくる。
葵は首を捻って「筋肉ついてきた系?」と意味不明なことを聞くが、


「マジか!?やっべー、本人に怒られるー」

部長は笑って、葵からちょっと離れてみる。
長距離組の所にいる鷹島をチラチラと見ながら。葵には何のことだかサッパリ分からない。
そんな彼の疑問を察知してか、鷹島ちゃん化と言った部員がコソコソと葵に耳打ちする。



「俺ら、齋藤君にめっちゃ構うことイコール鷹島ちゃん化っつってンだ」


鷹島ちゃんに聞かれたら、怒られるから内緒な!と。
葵はぽかんと口を開けたまま、首を捻る。
自分に構うことがなぜ、鷹島と繋がるのか。
確かに、最近鷹島と一緒に居る事はあの事件のせいで多いけれど。

しかし、それは最近の事だけではない事実を葵は他人の口からようやく知った。


「齋藤君って別のクラスで陸部でも無いのに、鷹島ちゃんにめっちゃ絡まれてるよなー」

「お気に入りなのか、それともブラックリストなのか…」

1年後半辺りからじゃないか、と皆口々に意見を揃え始める。
確かに、ちょうどその時期は葵がちょっと髪を明るくし始めた頃だ。
恐らく髪の色を抜いたことに腹を立てた事がきっかけなのだろう、と葵は思った。
実際そうかどうかは不明なのに。


「えー?鷹島ちゃんに構われンのウゼー!それよか、俺トンボかけてみてぇ!」

葵は鷹島の話題をさっさと打ち切って、手に持ったトンボ(馴らす道具)をパタパタと鳴らす。
鷹島の話題が嫌なわけではないが、自分との関係に突っ込まれるのは何だか変な気持ちなのだ。
部長含む部員達は、大して鷹島に興味津々な訳では無いのですぐに話題を変える。
そんなに土馴らしたいのかよーとケラケラ笑いながら、皆練習を開始し始めた。

葵は早速砂場を綺麗に均し、メジャーの準備をする。
いいよと声をかけて、早速部長が跳んだ。
土が飛び、綺麗に均したそこに足跡がつく。
葵は今まで、自分含む友人達の立ち幅跳び位しか見たことが無いので、その距離に驚く。

「…6メートル…20…!?」

身長より遥か遥かに跳ばれて、葵は眩暈を起こしそうになる。
今まで陸上部の練習を見てきて今更なのだが、葵とは身体能力が何もかも違う。
特に走り高跳びを見たときの葵の表情は見ものだった。
あんな高さを、人は背中からよく跳べるものだと。

しかし、跳んだ本人はといえば。

「うわっ、調子悪いな今日…」

と、後ろ頭を掻いていた。
初めて早々記録が伸びる訳も無いのだが、いつもはもっと跳んでいるらしい。
葵は唖然として均す余裕も忘れる。


(ひぃい…なンでそんな跳べンだ!?足にスプリング的な何かが!?)

変な妄想をしながら、葵はいそいそと土均しに向かう。
やたらでかいトンボを持ってきてしまったせいか、小人が一生懸命仕事をしているようだ。
思わず周りはクスクスと笑ってしまう。
そんなことにも気づかない葵は、一生懸命土均しを終わらせた。

測って、均して、ちょっと休憩してまた測って均す。
その繰り返しをしている内に、いつの間にか大分時間が経っていた。
そろそろ幅跳びだけではなく、他の競技の記録も録らないとならない。

葵は残りは自主練習してください、と冬香に言われたことをそのまま言い、中距離の選手達の所へ向かった。
広いグラウンドの端にいる中距離選手達の元へ一生懸命走っていく葵。
彼の後姿を見つめながら、部長はぼんやりと呟いた。


「意外と真面目にやってくれるよなー」

そんな部長の呟きに、歩幅調節をしている部員が気づき、

「俺も思った!俺、同じクラスなンだけどさ、アイツちゃらちゃらしてっからさ…
チャラついたら迷惑だから出てけって言おうと思ったけど…全然だな」

と、苦笑する。
マネージャーにチャラつかれるのが、記録を出そうとする部員にとっては1番腹が立つこと。
その上、今までのマネージャーはいつも真面目で一生懸命な人たちだったのだ。冬香も然り。
けれど、彼の言うとおり葵は意外に真面目にこなしている。
確かにチャラいし、授業はほぼ寝ているか携帯を打っているし、休み時間はやかましい。
いつもギャル系の女子とつるんでいて、軽音でギターを嗜んでいるその生活は真面目とは真逆だ。

だが、今現在の葵は。


「えーと、200インターバル…10本で、ラップは最低60秒だそうです…」

タイムウォッチの使い方も勉強してきたし、ラップやらインターバルの言葉も覚えてきた。
特に女子にナンパな行為をしてくる訳でもなく、しっかと仕事をしている。
最初はもちろんタイムを取り損ねたりとか、言葉の意味が分からずわたわたして少々怒られていたが、大進歩だ。



そんな葵が、手を叩いてスタートの合図。
広いグラウンドの内側で中距離組は走り始める。
そんな彼らの走る姿に向けて身体を動かしながら、数字を確認。
200終わりに近づくと、「45、46…」と大きな声で聞こえるように数字を読み上げた。

夏の乾いた空気に響いた声は、外周を走る長距離組のタイムを計る鷹島の耳にもしっかり届いていた。
チラリと葵を見た彼は、静かに微笑んでまたタイムウォッチに目線を戻す。

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