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今年の夏は、快晴続きらしい。
今日も今日とて、太陽がギラギラと輝き、雲ひとつ無い青空が広がっていた。

その空を、葵はバスの窓からじっと見つめる。
外はもうとても暑くなっていそうだ、とちょっとげんなりしながら。
夏の暑さは好きだが、日焼けしない自分の肌に日焼け止めを塗らなければならないという面倒くささがあるのだ。
今日もちゃんと持ってきたか確認済み。
途中のパーキングでトイレに行くついでにもう一度塗っておこうと、葵は決めた。

すると、

「今日は本当に暑そうだねぇ…はぁ」

溜息を吐いて葵に話しかける相席の教師。
確かに暑いのは苦手そうだ、と葵は彼を見てほとほと思った。
なぜなら見た目からしてなぜ陸上部の顧問なのだ、というふっくらしているフォルム。
中年太りなのだろう。

「まぁ夏っスから…相澤センセ」

葵はそう言って相澤に仕方ないと言う。
初め、相澤は葵がチャラいので少しばかり警戒していたが、バス乗車後少し話せばすっかり打ち解けたのだ。
そんな相澤となぜ同席になったか。
理由は簡単だ、葵が急遽参加だから。
そして、尚且つ鷹島はバス酔いしている生徒の傍にいるから。

相澤と隣でも葵は一向に構わないのだが、なんかちょっともやもや。
そんな葵のことも露知らず、相澤はにこにこと笑顔で、

「齋藤くんは夏が好きそうだね」

なんてご機嫌。
話をするのは嫌いではない葵。
ちょっと慣れたので、ふふんと鼻をならして、

「まぁ出会いの季節ですし?」

なんて言ってみた。
相澤は案の定な返事にカラカラと笑って、

「はは、夏は急速に近づくけど…離れもするンだよ」

と、恐ろしい事実を突きつける。
葵は素直に驚いて目を丸くした。

「そうなンすか…!?」

なんてことだ…と真剣に色々と悩み始める葵。
せっかく夏の海という素晴らしい急接近可能性大な所に行くのだ。
誰か1人でも自分と良い感じの雰囲気になってくれないか。
せめて文化祭までにお付き合いな関係にならないかと葵はとても期待しているのに。
ちょっとしょぼんとする葵を見かねて、相澤は慌てながら

「大丈夫だよ!齋藤君かっこいいから彼女できるさ!」

なんて言ってみせた。
相澤から見れば、チャラ男=モテるなので間違いは無いだろうと思ったのだ。
今はただ女を切らしているだけかという勘違い。
だが、そんな取ってつけたお世辞にも、葵は目をきらきらさせて喜ぶ。

「えっ、マジっすかー?俺初めて言われちったー!」

うははは!と機嫌よく笑う葵。
なんとかしょんぼりさせずに済んだ、と相澤がほっと胸を撫で下ろしていると、


「相澤先生、そいつを調子乗らせないでくださいよ」

調子に乗ってまた服装悪くなるンで、と付け足しながらハスキーボイスが諭す。
相澤と葵が2人同時に顔を上げた。
そこには前の座席から軽く通路側に乗り出して、2人を見る鷹島。
鷹島は1番前の席に、バス酔いした女子と乗っているのだ。
因みに葵と相澤教諭はその席の後ろ。会話は丸聞こえ。

葵はちょっと嬉しそうにぱたぱた足を動かしながら、むっと口を尖らす。


「相澤先生が言ったのは事実ですけどー!俺、イケメンっ」

お笑い芸人の真似事をしながらふざける葵に、思わず鷹島は喉を鳴らしてククッと笑った。
大分機嫌が良い葵を見るのは、楽しい。
それが自分の隣じゃなくて、相澤の隣だというのはちょっともやもやするが。
何で、という理由を考えることを放棄して、鷹島は


「相澤先生、本当にそう思ったンですか?」

意地悪にそう追求してみせた。
ずいっと寄って来る本物の美形に、相澤はおろおろする。

「前言撤回とかしちゃダメっすよ!鷹島ちゃん、しっしっ!」

すると、横からずいずいっと葵が寄ってきて鷹島に前に行けとジェスチャーをしてみせる。
マジマジと葵の顔を見るが、確かにイケメンではない。
どちらかといえば、柔らかく整っていて小動物みたいな顔だ。
ぱっと見は、眉毛が細かったり髪型のせいでその辺によくいるチャラ男に見えるが。
だがこんなことを、言える訳が無い。


「お前、調子乗ンじゃねぇよっ」

すると、鷹島が葵の手をがしっと掴む。
手を払う仕草に悪ノリしたのだ。細い手が、ガッシリとした手に包まれる。
しかしそれは力が込められているらしく、葵は「ぎゃぎゃっ!?」と変な悲鳴を上げた。
軽くギリギリと音がするそれを見て、相澤はぽかんと口を開けた。
こんなフレンドリーに鷹島は生徒に接していたのだろうか?と。


「鷹島ちゃんの手、汗かいてっから離せよー!キモーい!」

「かいてねぇよ!キモいっつーな!」

明らかに楽しんでいる2人。
間に挟まれて、何だかとてつもなく居たたまれなくなった相澤はおずおずと手を上げながら、


「鷹島先生…変わりますか?」

小さな声でそう告げた。
が、しかし2人はぴたりと動きを止めて、お互いにぱっと離れた。
葵は「鷹島センセとだと俺殺されるしー」とちょっとぶつぶつ言いながら外を見る。
鷹島はというと、何事も無かったかのように自分の席にちゃんと座り、隣でぐったりしている女子部員に「大丈夫か」と声をかけた。

なんだこの2人?と何も知らない相澤は首を捻る。

ただ単に、2人とも変に恥ずかしくて気まずかっただけだ。
まるで隣になりたいように思われるだなんて。

結局、そのまま現地に到着するまで2人は離れたままだった。
因みにパーキングでは、葵が日焼け止め塗りに専念してたので会話無し。
パーキングエリアからバスに帰ってきた葵に、相澤が「日焼け止めの匂い凄いね」と言ったのは言うまでも無い。



バスで約1時間。
目的地である、合宿用宿泊施設に一同は着いた。
各々荷物を持って、振り分けられた部屋に置いてくる為に一旦解散。
葵も、鷹島と一緒に自室へ向かう。

「俺、こういうトコ泊まンの初めてなンすよー」

すげぇー!と辺りをきょろきょろ見回しながら後ろを着いてくる葵にチラと目線を向けながら、

「ちゃんと自分で布団ひけよ」

と諭す。
一度、葵の家を見て尚且つ齋藤母が国際関係の仕事をしていると聞いて、何となく和に慣れないンじゃないかと思ったのだ。
しかし葵は、ぱたぱたと小走りで鷹島の隣に着くと、


「ひけるし!俺、祖母ちゃん家じゃ自分で兄ちゃんの分までひいてるし?」

もうプロだよ、プロいよ!と変な自慢をした。
何だその自慢は、と思いながら鷹島は「はいはいプロいプロい」と適当に流して部屋に入った。


「…おお…狭い…」

こちらに来る前に、高木達が泊まる部屋を見たがなかなかの広さだったのだ。
それと比べれば、鷹島と泊まる部屋は大分狭い。おおよそ6畳くらいだろうか。
因みに、部員達は4,5人で1部屋。それは広いに決まっている。

「…教員用に2人部屋借りたンだよ」

気分が悪くなった人のために、鷹島と相澤は別々の部屋だ。
今回、葵が急遽入ったので具合が悪くなった場合は相澤の部屋に泊まる事となる。
葵はちょっと申し訳ないと思いつつも、気にするなと言われているので声に出さないように心の中で謝った。


「とりあえず荷物置いたらグラウンド集合だ」

「了解っス!」

葵は急いで荷物を端の方に置いて、鷹島の後ろをまた着いていく。
着いて早々だが、説明も練習も早めに始めた方がぐだぐだにならないだろう。
葵も段々陸上部のことが分かってきた。
何だか、このまま正式なマネージャーになれそうだと、薄っすら思えるほど。


長い廊下を鷹島の歩幅に合わせて葵は歩く。
今、バンドで練習している曲を鼻歌に乗せながら。

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