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いきなり割って入ってきた鷹島に、高木は目を丸くして葵と鷹島を交互に見やる。
葵はツンっとそっぽを向いて、鷹島は何とか機嫌を戻そうと「嘘だっつってンだろ!」と必死に言い訳らしきことをしていた。
どうみても、軽い喧嘩をしている恋人同士。
高木は首を傾げながらも、

「2人とも痴話喧嘩は止めてくださいよー」

とからかう。
すると、鷹島と葵は2人してバッと高木の方を振り返り、

「付き合ってねーよ!!」

と声を合わせる。
見事な位ハモった2人の声と形相に、思わず部員全員が爆笑した。
いつも怒鳴り怒鳴られる関係しか見たことの無い彼らは、まさかそこまで気が合っているとは思わなかったのだ。
なぜ鷹島と葵が同室の件について喧嘩しているのか知らないけれど。
1人が、鷹島になぜ葵と同室が良いのか聞いた。
鷹島は先ほどと変わらない軽く怒った表情のまま、


「コイツがチャラくて他のヤツに悪影響を及ぼしたらマズいからな、監視だ監視」

相変わらず葵の明るい色をした髪を軽く掴む。
ふわふわでサラサラだな、と思いながら。
いきなり掴まれた葵は、「ぎにゃー」とよく分からない悲鳴を上げながら暴れる。
ばたばたと手を振り払おうとしながら、


「俺はチャラくねーし!」

チャラいという代名詞が少し嫌なことをアピールする。
そして、自分と同室の意味はそれかと内心ちょっとイラついた。
なぜかは分からないけれど、理由はもっと違って欲しいらしい。
そんなことなど気づかない鷹島は、もう片方の手で葵の頭頂部を拳で軽くぐりぐりとしながら、


「この頭で何を言ってンだ…!」

と、また指導する。
葵は半分泣き叫ぶように「痛い痛いぃい!」と暴れて、何とか鷹島から逃げることが出来た。
部室の隅に逃げる葵を軽く溜息を吐いて見ながら、鷹島は「合宿の件は後だ!部活始めるぞ」と、部長に告げる。
そういえばとっくに練習開始時間を過ぎていた。
部員全員が慌ててスパイクやランシュを持って外へ飛び出す。

一気にガランと静まった部室に、ぽつんと鷹島と葵は2人きり。
先ほどまで軽い言い合いをしていたので、ちょっと気まずい。不思議な沈黙が訪れた。


「…部員はアップしてるから、お前は坂本と一緒に準備しとけ」


それを微妙なアドバイスで鷹島が破る。
葵は俯いていた顔をパッと上げて、何度も頷いた。
やるべき事が分からないままでいるのが1番怖いから、とても助かる。
がんばるぞー!と1人ガッツポーズをしながら、葵はへたくそなスキップで部室を出た。
相変わらず下手なスキップだな、と呆れたように笑う鷹島も後ろを着いて行く。


夏の太陽は、葵の明るい金茶の髪をきらきら光らせる。
今日も暑くなりそうだ、と内心ひとりごちながら鷹島はアップランニングを始めている部員たちの元へ軽く走りよった。



葵は鷹島と別れると、グラウンドの端できょろきょろと冬香を探した。
すると、葵とは正反対の端の方から冬香が手を振って葵を呼ぶ。葵は慌てて冬香の下へ駆け寄った。


「おっ、齋藤君やっと来た!早速準備するよー」

「おっす!」


葵は元気に返事をして、なぜか冬香に向かって敬礼した。
何で敬礼すんの!?と冬香は笑いながら、ストップウォッチやラダーを持ってくるンだよと指示。
ラダーを今ひとつ理解できない葵は首を傾げながらも、

「了解っス!」

「はいはい、じゃあ行くよー」


元気に返事したが、軽く冬香にあしらわれてしまった。
ちょっと寂しいけれど、そんなにふざけてもいられないので葵なりにきびきび動き始める。

初めて臨時マネージャーをしたときは、途中から参加したので準備をしたことがない。
ほぼ初めて見た部活動の道具をしまう倉庫の中。
葵は何だか感動してしまって、思わず「おぉ…!」と声を上げてしまった。

そんな葵がおかしくて、思わず冬香は笑ってしまう。


「よし、齋藤君は男の子だし力持ちだろうから、ラダーとブロック持ってきてね!」

「え、それ重いの…?」

「そうでもないよ」

葵はそれなら大丈夫かな、と自分の腕力を少々気にしていたが、冬香の言うとおりそれほど重くは無かった。
少量ならば。


「もっといっぱい持って!」

と、冬香はせかすが冬香より小さくて男子にしては小柄な方なので5つ以上など無理だ。
葵はふるふると頭を横に振って逃げるようにグラウンドへ出て行った。


着々と準備をしている間に、部員達もアップや準備体操、ストレッチなどを済ませる。
鷹島もそれに混じって、余った部員と一緒にストレッチをしていた。
ふと、鷹島が案の定気になって葵の方を見れば、大体の準備が終わったらしい。
一息吐いて、冬香と一緒にアスファルトに座ろうとしていた。

何となく鷹島は、


「齋藤、こっち来い」

と、ついつい葵を呼んでしまう。
葵は純粋に何だろう?と疑問を浮かべながら、素直に鷹島の元へ駆け寄った。

「まーた鷹島センセ齋藤クンかまってるよー」

鷹島とペアを組んでいた男子生徒がわざとらしく溜息を吐きながら、いそいそと早めにストレッチを終えたグループの所へ行ってしまった。

また、って何だと鷹島はちょっと威嚇しつつ、葵を自分の前に座らせる。
そして長座させ、ぐっと後ろから押した。

「わわっ!?」

ぺたっ、と葵は前屈させられる。
しかし葵は身体が柔らかいので、軽々と両手の指先は足先についた。
2人を見ていた部員達は、葵の身体の柔らかさに驚く。
葵は運動をしない人なので、どれほど硬くて「痛いぃい!」と叫ぶのだろうと部員達はちょっぴりわくわくしていたのだ。

誰より驚いていたのは鷹島。
ちょっとからかってやろうと思っていたのだが、予想外。


「お前柔らかいのか…」


だからあの時、あれ程足を広げても大丈夫だった訳かと変なことを思い出しながら。
下心ありありな鷹島の内心など知らず、葵はちょっと調子に乗って、


「俺、体は柔らかいンだよねー!ほら!」

今度は開脚して、前屈。
ぺたっと上半身の殆どが地面についた。

その柔らかさに、部員達は「凄い凄い」と褒め称える。
まるで「俺こんなにできたよ!」と自慢する子どもを「えらいねー」と温かく褒める保護者のように。
そんなほのぼのした空間の中、夏の暑さのせいか悶々と変なことを考えている大人が1人。

(あれだけ柔らけぇと色々な体位が…)

そこまで考えて、鷹島はハッと自分のスケベさとアホさに気づく。
何故葵をそういう目線で見てしまったのか。ひどく後悔。
もう二度と思い出さない、シない、そういうことを考えないと心に誓ったのに。

鷹島は夏の暑さのせいだ、と決め付ける。
それに最近ヌいてねぇしなんて生々しいことを考えながら、葵から離れていった。


(何がしたかったンだろ…?)

呼んでおいてさっさと離れてしまう鷹島に、葵は心底不思議がったとか。

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