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 「じゃあ、しっかり宿題やれよ」

鷹島の車で自宅まで送ってもらい、自宅前で葵が降りると鷹島は先生らしいことを彼に呼びかける。
葵はちょっとばかし顔をしかめて、

 「わ、分かってるっス…!」

と目を泳がせながら言った。
宿題どころか、勉強全般が好きでは無いので、やれと言われれば嫌気が差すのだ。
しかし鷹島に「えー!やだなー」などと言える訳が無い。下手すればまた頭を物凄い握力で掴まれる。

しかし、そんな葵の心を薄っすら読んだのか、鷹島は一瞬眉間に皺を寄せて、


「オメーは成績も悪いからな…」

と呆れたように息と言葉を吐いた。
その言葉に葵はちょっとカチンときて、思わず叫ぶ。

「も!?もって何!?」

「素行と服装」

「うぐ、」

ばっさり言われて何も言えずに葵は口を紡ぐ。
でも直す気はサラサラ無いのが17歳という年頃。
子どもは子どもなりに意地を張り、こだわるのだ。

そんな子どもの扱いは、鷹島も教師。
重々承知である。高校生なので、やってこなかったら「ほれ見たことか」的なプレッシャーをかければいいのだ。
しかし、鷹島はなんとなく葵に同情的な何かをかけたくなって、薄っすら笑いながら、


「宿題、7月中に終わったら行きてぇトコ連れてってやろうか」

と、ご褒美作戦を提示した。
途端、葵は先ほどまでの怪訝な表情を一変させ、きらきらと笑顔を見せる。
相変わらず現金な男であった。


「マっジでー!?やった!鷹島ちゃんマジ太っ腹ァ〜大好きっ」

とまで、言ってしまう。
鷹島の口の端が引きつった。
冗談だと分かっては居るものの、抱いた(というか犯した)相手、その上男にそのようなことを言われると複雑な気分である。

葵もやっと空気を読んだのか、焦り始めた。

「あ、あはは、冗談!7月までに終わらせる!」

首の後ろを不自然に掻いて、明後日の方向を見る。
葵お決まりの嘘ポーズだ。
本当は7月中に終わらせられる気などさらさら無い。
遊びにバイトにバンド練習すれば、残り10日程の7月なんてあっという間に過ぎるに決まっている。

それを見越しての鷹島の条件だ。

「ま、せいぜい頑張れ」

なんて軽く言っている時点で。




鷹島の車が走り去った後、葵は上機嫌で鼻歌まで歌いながら自宅の鍵を開けた。
普段から両親は居ない上に、拓也は仕事なので、いわゆる鍵っ子なのである。
しかし、そんなことはいつも通り。
葵は特に気にせず、いつものように玄関に入ると鍵をちゃんと閉めて、軽くスキップをしながら廊下を駆けた。


(なんか楽しいなー)


何だか胸が暖かくなる。
不思議な感覚に、葵は疑問を浮かべながらも思わず笑みを浮かべてしまった。

部屋に戻ったら、今日手に入れた自分と鷹島のある意味ベストショット写真を、コルクボードに飾ろう!と葵は意気込む。
思い出が増えて行くことがなんだか嬉しかった。


ふと、葵が拓也の部屋の前に差し掛かるとなにやら声が聞こえる。
齋藤家は築3年の新しめのマイホームなので防音はバッチリである。それでも漏れる声はどうやら電話やテレビなどではなくマンツーマンの話し声。
友人でも来てるのだろうかと思い、葵は空気を読んで大人しく自分の部屋へと戻って行った。

因みに、拓也の自室は1階の西側。
葵の自室は2階の東側である。

正反対にあるため、普段階段を上がらない限り通らないのだ。

それが、拓也と竜一にとっては幸いである。
なぜならば、今まさに拓也と会話しているのは竜一だから。



「そういえば葵どこ行ったンだろうな」

「双子の家にでも行ったンじゃないっスか?」


葵が帰ってきたことなど露知らず、2人は拓也が勉強を教えるという名目でいちゃいちゃしていた。

しかし、いつ帰ってくるか分からないのでただくっついてだらだら話す程度。

時折拓也の鼻を掠める竜一の髪の香りや、はにかむような笑顔。
そして、ちょっとしたボディタッチ。
おずおずと手を握られれば、嬉しくない訳が無い。


せめてキスくらいはいいんじゃないだろうか、と拓也はむらむらした欲求を抑えきれず、思わず竜一の腰に手を回した。
相変わらず細くて掴み心地のよい腰に、またもやむらむらと欲情が湧き出てくる。

そして、驚いて恥ずかしそうに拓也を見上げる竜一の表情。


「た、拓也、さんッ!?」


「キスだけ。ダメ?」


「そ、それはっ…その、…」


拓也は甘えるように竜一の額に自分の額を合わせれば、竜一は顔を真っ赤にして俯く。
もじもじと身体を揺らし、相変わらずの恥ずかしがり屋さん全快で照れた。
そんな竜一が、かわいくてかわいくて仕方ない拓也。

NOを言わないので、了承と受け取り拓也は小さな唇に自分の唇を寄せた。
そのとき、


コンコン、と2回ノックと共に


「兄ちゃん?葵だけど、今日夕飯いらねぇからー。あと、留守電にお父さんからメッセージ入ってた、何か明日1回帰ってくるってさ」


一番知られてはいけない、葵の声が響いた。
2人は慌てて身体を離し(葵は入ってきていないのだが)竜一は逃げ込むように拓也のクローゼットの中に逃げ込んだ。
拓也は竜一の荷物を隠しながら深呼吸をして、


「お、おう!なんだ食ってきたのかー、了解了解!今年は親父帰ってくるの早ぇな!」


「ん?なに焦ってンだ?いつも父さんっつてるのに親父ってなにそれ…きもっ」


あまりに焦りすぎた返答のせいで、葵に疑われる上に気持ち悪がられる。
ちょっとショックを受けるも、竜一が来ているとは微塵にも思わないのか、葵は伝えたいことだけを伝えてさっさと自室へと帰って行った。

葵の階段を上がる足音を聞いて、2人はようやくほっと安堵の息を吐く。
竜一はふらふらとクローゼットから出て、


「あの…今日は俺帰ります…これ以上居たら多分葵にバレる…」

ちょっとやつれた様子でそう告げた。
拓也はかなり残念に思うも、これ以上心労をかけたくないので、

「そ、そうか…そうだな、家まで送ってくか?」

「バス停までで大丈夫っす」

「ん、分かった。じゃあ車に行くか」


はい、と竜一は頷いて鞄を掴む。
謙虚な竜一に思わず頬が緩むが、ちょっとくらいわがままも言ってほしい男心。
もっと一緒に居たい!と言われれば、OKですと即答できるのに。
竜一には聞こえないように溜息を吐いて、拓也は車の鍵と家の鍵を持ってドアを開ける。

1歩後ろを着いて、竜一はじっと拓也の後姿を見つめた。


(…拓也さん…)

広い背中にぽおっと頬を染める。
自分は別に男色思考など無いのだが、拓也の広い背中は大好きだった。

抱きついちゃおっかな、と竜一には珍しく積極的な思惑が浮かぶ。しかし、やっぱり恥ずかしいのでちょっと手を握るだけにした。
これだけで大進歩である。

竜一の手の温もりが掌に伝わり、拓也は思わず顔を綻ばせてぎゅうっと握り返した。


「竜一の手は暖かいな」

「え、そうっすかね…」


なんていちゃいちゃしていると。


「兄ちゃーん!忘れてた!宅配便届いてなかった!?」


ばたばたと階段を駆け下りながら葵が大きな声を出した。


「葵ー!?」

思わず拓也は驚きの声を上げると、葵が「なにでかい声出してンだ?」と疑念の声を上げながらひょいと階段から姿を現す。
驚きすぎて、竜一は隠れることが出来ず、呆然と立ち尽くした。


「…あれ?竜一?」


言い訳をするか、はっきりと事実を弟にぶっちゃけるか。
拓也にとって究極の二択が迫られてしまった。

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