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当初、葵がたくさん盛りすぎて終わらないかと思っていた肉やオードブルだったが、鷹島が元々体育会系で結構食べるのでそれらは何とか底を見せた。

あの程あった肉の山が、今や姿かたちも無い。
さすがに大分食べたな、と鷹島は満腹感にぼんやりする。
対する葵は、鷹島と違って皿1枚程度でダウン。
もう入ンないーと気持ち悪さに突っ伏していた。

だがしかし、


「アイスは別腹だよなっ!」


「お前…すげぇな…」


葵は嬉々としながら、ソフトクリームを持ってきた。
自分で巻けるシステムなので、楽しそうに何巻きもし、上にチョコレートソースやシリアルをかける。
甘ったるそうなそれを見て、さすがの鷹島も吐き気を催してきた。
よくもまぁ、甘いものは別腹なんて子供か女みたいなことを言うものだと呆れる。

そんな鷹島の内心も知らず、葵は美味しそうにそれをほお張った。
爽やかな甘さが口の中いっぱいに広がり、焼肉や焼きソバの濃くて重たい味を打ち消してくれる。
ついでに、それだけではなくシリアルとチョコソースがあるので飽きない。

あまりの美味しさに、葵はそれをぺろりと完食した。


「ん、終わったか。そろそろ時間だから出るぞ」


葵の完食を確認した鷹島がそう呼びかける。
荷物(と言っても財布と車の鍵だけ)を持ち、葵に帰る準備を促した。
葵は慌てて自分の荷物を整理し始める。
何だかもうちょっと居たい気がするのに、鷹島はさっさと帰りたいのだろうか、と思えて準備をする手が遅くなった。


(…示談だもンなぁ…)


遊びでもなんでもない、鷹島にとってただの罪滅ぼし。
葵が満足すれば、それは果たされそこであの事実は徐々に無かったことになるのだ。

先に車に向かう鷹島の数歩後ろを、葵は俯いて着いてゆく。
たくさん好きなものを食べれて、大満足。しかも奢りで申し分ない。
それなのに、何だか一気に気落ちしてしまったのだ。


相変わらず外は灼熱。
じりじりと焼け付くような暑さが、葵の男にしては白い肌を痛めつけた。
日焼け止め塗ってくるの忘れたな、と思いながら帰ったら赤くヒリヒリする痛みを思い出し杞憂になる。


「…あつー…」


ふらふらしながら葵は空を見上げた。
夏なので日が落ちるのも遅い。もう5時を過ぎたというのに、昼のような明るさを保っていた。
まだ時間もあるし、鷹島に学校まで送ってもらってからギターの練習でもしようか、とぼんやり思うと、


「おい、大丈夫か?」

いつの間にか鷹島が葵の横に来て、ぼんやりふらふらする葵を心配してその顔を覗き込んだ。
顔色は悪くないようだが、如何せんいつものへらへらした笑い顔も何も無い。

じっと葵を見つめる整った顔立ち。
相変わらずちょっとキツくて怖いけれど、ムカツくくらい男前だなぁと葵はぼんやり思った。
そして、思わず。



「…これで示談終わりっスか?」



と、聞いてしまった。

鷹島は一瞬、息を止めて何度か瞬きをする。
自分を見上げる葵の表情が、何か寂しそうな気がしたのだ。意外に大きい瞳の色素は薄く、引き込まれそうになる。
そんな表情で、そんなことを言われれば、大人の鷹島は期待をしてしまうのに。

しかし、ふと思いつく。
これはまだ満足していないということではないか。

鷹島は呆れたように溜息を吐き、葵から少し離れた。
葵の胸がツキンと痛みを覚える。


「なに、まだ満足できねぇか?…やっぱ辛いか、俺と居るのは」

同じ男に無理やり犯されたのだ、その相手と食事の時点でまず示談になっていない。
やはり法的にも「示談」と言われる現金を渡すべきかと考える。
しかし寂しい懐的には、もう少し待っていただきたい。それを葵に告げようとしたとき、当の本人は困ったような顔をしてふるふると首を横に振った。


「ち、違くて、…先生、俺と一緒にいるの嫌なのかと思って、」


「…は?お前の方が嫌だろ?…2日前のことなんか早々忘れないだろ…」


う、と葵は行き詰る。
そうだ、自分は目の前にいる男に犯されたのだと。
思わず鷹島の唇や指、そして股間に視線が行ってしまった。あれを自分の中に入れられて散々…とたった2日前のせいでリアルに思い出す。

もじもじと両足を揺すり、葵は羞恥に耐えた。
確かに男としてかなりの屈辱だ。けれど、


「…忘れてねぇけど、なんだろ、…先生と一緒にいるのヤじゃねぇよ…?」


一緒に食事をすることも、お互いのことを知ってゆくような談笑を交わすことも、別に嫌ではなかった。
…それは、鷹島も同じで。

鷹島はちょっと空を仰いで考えてから、瞼を閉じて一息置く。
そして、


「…ま、お前が満足するまで示談続けてやるから。…あと俺も別に嫌じゃねぇよ、ムカツクけど」


「な、ムカツクってひどくねぇ!?」


「あ?大体夏休みなのにまだ俺にそのだらしない制服姿を見せ付けやがって!」


「鷹島ちゃんはジャージじゃんか!」


あっさりといつものやりとりに戻してしまった。
葵はまた鷹島に頭を掴まれて制裁をうけるも、先ほどのちょっとドライな態度よりは何だか嬉しくてちょっと笑ってしまう。


そんな、葵と鷹島の夏休み1日目が終わろうとしていた。

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