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運命の放課後。
というのは可笑しいかもしれないが、葵にとってはそうだった。
なぜなら2階全てのトイレ掃除というのは非常に精神的にも肉体的にも疲労困憊する罰なのだ。

その事実には立ちくらみを起こしそうになるほど。
おかげでまた服装を正すのを忘れてしまった。


葵は、体育館のギャラリー奥にある体育教諭専用の職員室のドアを力無く開けた。

いつもは、何人かの先生たちがみんなで振り向いて「齋藤くんまたやらかしたの?」とにこにこしている。ここの教師は非常に寛大すぎるのだ。
だが、今日はガランとしている。
そんなに遅くに自分は来たのだろうかと時計を見るが、放課後少し友人と喋ったりしたがそんなに経っていない。

鷹島はともかく(会いたくない)他の先生方はどうしたのだろう、と葵はきょろきょろと辺りを見渡した。

「…常盤せんせー」

自分の体育担当の教師を呼んでみる。
返事がある訳が無い。みんなでかくれんぼをしているわけではないのだから。

仕方ない、呼びたくないけれども鷹島を呼ぶしか無いなと葵は口を開いた。


「鷹島せんせー…」

「お、齋藤来たか」

「ぎゃああああ!!」

背後からいきなり声をかけられ、悲鳴と共に飛び跳ねる葵。
そんな驚きっぷりに、普段自分が恐れられてしかいないことに少し傷つきながら鷹島は呆れたように呟いた。


「俺は化け物か…」


その困ったような顔に、葵は慌てて首を振る。

「違う!違うっスよ!いきなり来たからびっくりして…」

鷹島と葵の身長差は16センチ。
おかげで葵は鷹島を見上げる、それも首が痛くなるほど。
そのうえ、首まで振ったので葵の首からは不吉な音がした。


「いでぁっ!?」

案の定、首の筋を軽くつってしまった。
痛みに悶えている葵を「大丈夫か」と気遣いながらも、思わず笑みがこぼれてしまう。
あまりにも、痛みが走った瞬間の顔が間抜けすぎて。

「何笑ってンすか…鷹島ちゃんが背高いのが悪い!俺にくれ、それくれ!」

しかし、身長が若干コンプレックスな葵はむくれてしまった。ましてや、鷹島の身長は男の憧れ180センチ。対して葵は160センチ前半。
数人の女子には抜かされているレベルである。

「俺のせいにすンな。背伸ばしてぇなら肉食って運動でもしろ」

「肉?肉がいいの!?」

仕方なく適当に助言すれば、思い切り食いつくバカな男が1名。
きらきらと瞳を輝かせ、他には他にはと色々と聞き出そうとする葵に返事も返さず、溜息を返した。

そして、同時に身を屈め齋藤の薄い身体を肩に担いで。

「いいからトイレ掃除行くぞ。…お前軽いなー」

「うわ、うわっ!なに、なにこれっ!?」

驚きでばたばたと暴れても、体育教師で尚且つ陸上部顧問な鷹島に、ひょろい身体のチャラ男が敵うわけも無く。
葵は、鷹島に軽々と担がれて2階へと連れ去られてしまった。



階段も諸共せず齋藤を担いだまま昇る鷹島に、葵は「凄ぇなぁ」とぼんやりと思う。
暴れても仕方ないと分かったので、大人しくすることにしたのだ。
17にもなって教師に担がれる(というよりは若干だっこに似ている)とはいったいどういうことだろうか、と打ちひしがれながら。

ふと、少し冷たいジャージから薫る男の匂い。
汗臭いとかイカ臭いとか加齢臭ではなく、男性がつけるような香水の香り。
先生も香水とかつけるのかな、と思いつつも不思議とその香りが心地よくて、うとうとと葵は瞼を落とし始めた。


(そういや昨日、ホムペ編集してたら1時過ぎてたっけか…)


友人とやっている目的も無いホームページ(ただの日記)を手探りで改装していたら瞬く間に時が過ぎた昨日を思い出す。
結局、中途半端なものになってしまったのだが。



「…齋藤?着いたぞ」


とりあえず端から行くか、と校舎の西側端のトイレ前に着いたのだが、一向に返事も動きも無い。
若干の動きはある。
…寝息、だ。

まさか自分が抱きかかえている生徒が寝るとは思ってもみなかった鷹島。
起きろ!と一喝すればいいのだが、なぜかそれが出来ないでいた。

予想以上に軽く薄く、暖かい身体。
すやすやと気持ちよさそうに寝息を立てて。
時折、すりすりと甘えるように擦り寄ってくる。


不覚にも、かわいいと思ってしまったのだ。
校則違反を繰り返し、何度怒っても改善が見られない上にふざけるにくったらしい「男子」生徒なのに。


そんなに自分にイライラ、そしてすやすやと眠るアホな生徒にもイライラして、


「齋藤!寝てンじゃねぇ!!」

「ぎゃっ!!え!?俺寝てたの!?」


思わず大声を出せば、寝たことにも気づかないアホというよりはもはやバカな葵はやっとのこと目覚めた。

一応ゆっくり葵をおろした鷹島は、眉間に皺を寄せ軽く睨みつける。
びくり、と齋藤の肩が揺れた。
チャラ男はヤンキーではない。よって喧嘩もしたことがない。


「人が運んでやったのに寝るってどういことだ齋藤」

「い、いや、頼んでねーし…」

勝手に担いだじゃんか、と呟きつつ鷹島を見れば。
そこには修羅のような形相が。

「ああ?」

「ひっ!?と、トイレ!トイレ掃除しまっす!あは!」


葵は慌てて男子トイレに逃げ込み、慌しく掃除を開始した。
以前もトイレ掃除はしたことがあるので、道具の位置や順番は完璧であるので問題は無い。

鷹島も「一応少しは手伝うか」と罰を課せたはずの立場なのになぜか拭き掃除だけ手伝い始めた。



「センセー、2階の終わったら帰れンだよね!?ほんとに!」

「だから早くしろっつの」


そんな会話を交わしながら。
結局終わったのは6時過ぎた頃だったのだが。

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