1,これが2人の日常です
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1人の教師が眉間に皺を寄せ、目の前を堂々と校則違反の制服で闊歩してくる生徒を睨みつけた。
おまけに相手は素行も最悪で、誰もいない廊下に味を占めているのか堂々と携帯で通話を楽しんでいる。
おかげで、苛々頂点な目の前の教師に気づかないまま歩き続けた。

「…おい、」

「はい?…あ、」

不機嫌な声に、ご機嫌に返事をした男子生徒は、目の前で怒りのオーラを身にまとい過ぎた教師にやっとのこと気づいた。
やばい、と思った時にはもう時既に遅し。

がっ、と音を立てるかのように勢い良く、男子生徒の頭は教師の掌に納められた。
そして、


「あー!あー!!痛い痛い痛いぃい!先生、許して許して!」


「るせぇ、齋藤!テメェ、何度何度注意したら直るんだこのボケが!」


ギリギリと握力全開にして、髪の長い頭に指を食い込ませた。
孫悟空になった気分だ、と無駄なことを生徒は思いながら、何とか逃れようと身を捩る。
何度目かも分からないこの痛みから、逃げられた試しなど無いというのに。


すると、ちょうどよく鳴り響く予鈴。
一瞬だけ緩んだその手を、生徒は勢いよく振りほどき一目散に自分の教室へと逃げていった。
逃げ足だけは速いやつめ、と教師は小さく舌打ちをしながら、仕方なく自分の担当する教室へと入っていった。




夕陽丘



「はよーっス、葵!まったまた鷹島ちゃんに怒られてきたのか?」

ぶすっと口を尖らせながら、携帯をいじる齋藤葵に、友人の青木竜一がけらけらと笑いながら彼の背中を叩く。
その手を軽く振りほどきながら、

「そうなンだよ…マジ、あの先生俺になんか恨みあンじゃねぇ?」

と、愚痴を零した。
ついでに肩にかかりそうな髪を指でいじりながら。
その髪の色も、明るい茶色。というより金に近い。
それが大きな原因だろ、と竜一は笑いながら指摘した。ギクリ、と葵は肩を揺らす。

何となく鏡を取り出し、自分の顔を見つめた。
確かに、髪は校則違反。そしてピアスに細い眉毛。
完全なチャラ男と言っても過言ではない。
その証拠に、

「葵ー、今日さ二高の女子とカラオケ行かね?」

「行く行く!なぁなぁ、みゆきちゃん来っかな?俺、マジ狙ってンだけど」

女の子が大好きで、彼の携帯の電話帳には同じクラスの女子のみならず、他校の女子の連絡先がびっしりである。
現に、彼の「女友達」が背後から

「みゆきちゃんは無理っしょー?陸上部の高木くんと付き合ってるっぽいよー」

からからと笑いながら茶化す。
そんな彼女たちの見た目も非常にチャラけているのは言うまでも無い。
そんなからかいにも負けず、葵は

「るっせ!俺は恋多き男だから、みゆきちゃんもきっと俺にフラつく!」

と意気込んでみせるが、

「無い無い」

と、ばっさり切られてしまった。
またもやぶすっと口を尖らせる葵。
が、すぐにへらへらと笑って「とにかく今日は誰かと恋に落ちてやるよ」と意気込んで見せた。

その性格のおかげか、友人は多いほうだ。
だが、いまいち恋人が出来ないことが最近の悩みである。そんな彼は、高校2年生の青春真っ盛り。


だけども、


「…齋藤、俺に怒鳴られても尚その髪型は続けンのか?」

葵の背筋がぞっと凍りつく。
彼の背後から聞こえる、低音のハスキーボイスに目の前にいる女子一同はにこにこと顔色を変えたのだが、葵にはどうしても魔王の声にしか聞こえなかった。

よし、逃げよう。

アホなことに葵にはその選択しか出なかった。
が、彼は何の運動部にも所属していない帰宅部。筋肉も瞬発力も無い。
対して、葵を捕らえようとしている生徒指導担当の鷹島教諭は体育教師であるのだ。

敵うわけが、無かった。


ガシ、と首根っこを掴まれ、


「よし、齋藤。今日は2階全てのトイレ掃除だ、良かったな!」


「い、イヤっす!今日は、みゆきちゃんとカラオケがぁ!」


「あ?知るか!学生は学生らしくトイレ掃除に勤しめ!」

「助けて竜一!」


葵は涙目で竜一に助けを求めるが、爽やかな見た目に反して目つきが鋭く尚且つ鬼教師と呼ばれるほどの鷹島から救える訳も無く、竜一は静かに首を振った。


「葵の代わりに、彰人連れてくから!ゆっくり掃除してけ」

「話が分かるな、お前の友達は」


因みに鷹島はこのクラスの生徒は一部しか覚えていない。彼らの体育の授業は持っていないし、クラスは別なのだ。
逆に言えば、葵が覚えられていることは珍しい。

しかし、葵にとっては嬉しくもなんともない。


「りゅ、竜一!お前…!」


裏切りやがって、と呻きながら葵は鷹島に着々と服装を正された。
が、しかし。
彼が行ったらすぐにシャツは第3ボタンまで開け、中は赤いTシャツ。シャツは入れない、腰履きズボン。などなど、校則違反の模範生徒になったのだが。



「でも、ばっくれたら親召喚とかになるからなぁ…」


「そうそう、頑張れよ葵」


葵はため息を深く吐いて、授業も受けずにまたメールを打ち始めた。
ぼんやりと毎回自分を捕まえては説教をし、服装を無理やり正す鷹島のことを考えながら。



(え、何俺ったら先生のこと考えちゃってンの?)

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