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ようやくいつものように5時解散で部活動が終わった。いつもならだらだらと陸上部の生徒達と談話する鷹島も、今日は急いで職員室へと向かう。

待たせているという申し訳なさと、何だかちょっとわくわくしていることが重なって、その足は気づかぬうちに早足へとなっていた。

静かな階段が、鷹島の体重でギシギシと鳴る。
この音で齋藤は気づくだろう、と鷹島はうきうきしている葵を思い出しながら機嫌よく駆け上がって行った。


そして、大きな音を出し過ぎないようにドアを開ければ。

そこには待ち構えている葵…ではなく。
散乱している写真の数々だった。


「…なんだ!?」


思わず声をあげれば、散乱の元凶の場所にいた葵がびくりと肩を跳ねさせる。
やばい、と顔に書いたような表情を浮かべ、わたわたと急いで写真を片付け始めた。


「すすすんません!何かいきなり落ちてきて!片付けようと思ったらつい見ちゃってて!」

おもしれぇンだもん!と言い訳しながら。

鷹島は大体それで理解し、溜息を吐きながら一緒に写真を片付けてやろうと数枚拾う。
思わず写真を見てみると、そこに写るはタイミング良く葵の姿。
去年の体育祭のときだろう。まだそんなに服装や髪がひどくない時期だ。と言っても色素が薄く、周りに比べればだいぶ長いのだが。

あどけなく笑って友人達とピースしている姿に、鷹島は思わず微笑む。


「お前がアホな顔して写ってる」

「え!?そんな変な顔して…!?」


わざと葵を焦らせるようなことを言って振り向かせた。やっぱり、わたわたと焦って笑顔よりアホな顔を向けて鷹島へと近寄る。
葵は、警戒心0で鷹島の肩を掴みながら後ろから覗き込んだ。
そこに写っているのは、別にアホな顔はしていない普通の笑顔の写真。だが自分の昔の写真を見て気持ちがいいはずもなく。

「うわー、俺きもっ…!それ早く片付けしましょうよ…」

不快感丸出しに顔を歪めて、嫌そうに声をあげた。
気持ち悪くは無いだろう、と鷹島は思いながら後ろを向こうとした、が。

目の前に葵の顔。
後ろから覗き込んでいるのだ。当たり前である。

近すぎる距離で、互いを見詰め合ってしまい、思わず葵は勢い良く後ずさった。
鷹島も少し身体を動かし距離を作る。


2人の間に変な沈黙が訪れた。
掛け時計の秒針だけがうるさく鳴り響く。


今まで、こんな変な空気になったことが無いので、2人とも落ち着いたふりをして写真を片付けるも内心混乱していた。
葵は、なんでこんなに緊張するんだ?とこの状況に対して理解できず。
鷹島は、なんで齋藤なんかに緊張するんだ?と自分の状況に理解できず。

とりあえず黙々と片付けたので、予想以上に早く作業は終わった。
それでも沈黙は続く。

葵がぐるぐると考え込んでいると、


「…よし、行くか。荷物持て」

「あ、はい!」

鷹島が背伸びをしながら沈黙を破った。
その波に乗り、葵も「楽しみだなぁ」とひとりごちながら急いで自分の荷物を持つ。
その間に鷹島は手際よく戸締りをし、2人揃って体育教師用職員室を出た。



2人分の体重を乗せた階段は、ギシギシと呻く。
壊れないかな、と葵はちょっと不安になってゆっくり歩いた。あまり変わらないのだが。

最後まで降りきると、鷹島は葵に車のキーを投げた。
綺麗に宙で弧を描いたそれを慌てて受け取れば、鷹島は、


「俺ちょっと職員室行ってくっから。先エンジンかけて乗ってろ」


暑かったら窓開けてクーラー付けていいから、と告げて早足で行ってしまった。
鍵を戻しに、と報告や帰宅の準備をするのだろう。
やっぱり先生は大変だな、と葵はぼんやり思いながら鷹島の車を探した。




と、言っても鷹島の車は結構速く見つかる。


プールの横にある体育教師がよく車を止めている場所。その左から2番目。


(あったあった…相変わらず目立つな…)


周りはミニバンやらワゴンで、何ら普通の白や銀で落ち着いている。年齢もあるのか、時たまちょっと古い乗用車もあるが。

しかし、左から2番目はそれらに比べると浮いていた。


黒のハードトップというだけで結構目立つというのに、ホイールはインチアップされタイヤから目立つ。
そして後ろにはGTウィング。ちょっと低めだからよいが…と言うわけでもないが。
そのほか、中のシートはちょっと高級に皮仕様。そのほか、聞いたところエアロパーツはとことん弄っているらしい。


いわゆる、改造車だ。


違法ではないが、車検ギリギリらしい。
葵は、意外な趣味を持っていることに最初は驚いたが、今はちょっと生暖かい感情を送れる。

車を持つとこうなるのかな、と思いつつも兄は父から譲ってもらった古いタイプのワゴンを愛用しているので人それぞれか、と1人で納得しながら鍵を開けた。


この改造車がまだマシなところは、スピーカー周辺は弄っていないところだ。
音は至って静か。


葵は助手席に乗って、パワーウィンドウを下げる。
クーラーを全開にし、むしむしする車内でぼんやりと鷹島が来るのを待った。


ちょっとだけ、数学の友に挟んだ写真を垣間見ながら。


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