夏休みの過ごし方
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学生にとって、最大級とも呼べる恒例行事。
思い出作りやだらだらした休息、勉強や部活に熱心に取り組んだりと様々なことを自由に楽しめる、長い長い夏のお休み。

葵たちの住む夕陽ヶ丘市は盆地なので夏が異常に暑い。それでも端の方なのでまだ少しマシな方だ。
じりじり、と肌が焼けるような暑さに、さすがの葵もぐったりとリビングで生気を失っていた。


「海ー海行きてーよー」

夏休みが始まって初日なのに早速弱音を吐いている。
海へ行くのは遠くは無いが近くも無い。
そんなに小遣いも無いので、来月のお盆前に行こうといつもの4人組で昨日決めたのだった。

主な彼らのスケジュールは大雑把なのだが。

まず、7月中に1度東京へ遊びに行く。
色々な店を回りたいという願望だ。
そして8月上旬は4人と他校の人たちと共に海へと繰り出す。お盆は母の実家に行き、下旬は宿題に終われる…と言った充実している休みである。
その中にはアルバイトやバンドの練習も含まれていることを忘れてはならない。

しかし、そんな充実するであろう初日が。

「暇だ…」

アルバイトも休み、というか基本火曜日と日曜日しか入れていないので元々少ない。
バンド練習も、いつも使っている視聴覚室は3年生の受験勉強に使われ、音楽室も器楽部と合唱部でいっぱいいっぱい。
器楽部と合唱部の休みが被る月曜・木曜を狙うしかないのだ。

よって、葵は。

「暇だー!!」

ひとりぼっち。
ごろごろとソファベッドの上で2回転し、少しひんやりした床に墜落した。
ごつん!と鈍い音がするが、葵は「うう」と少し呻いただけで動かなかった。動くのも面倒くさい。

人間、暇すぎて寂しいとテンションががた落ちになるものだ。

どうしよう、と葵はぱたぱたと床でバタ足をしながらふと、親友の顔を思い出した。



(そうだ!竜一は確か兄ちゃんの図書館行って宿題やってるンだよな!俺も行って終わらすか!)


珍しくさっさと宿題を終わらすことを決め、葵は早速自分の部屋へと駆け上がった。
とりあえず面倒くさい英語のプリント集と数学の問題集を終わらそう、とご機嫌で鼻歌を奏でながら嬉々と鞄の中から英語のプリント集を取り出す。

だがしかし。

数学の問題集が見つからない。
全ての教科書やノートやクリアファイルを部屋中に広げても海の写真が目印の「数学の友」が見つからない。

葵はおろおろと部屋の中を歩き回りながら、1つの可能性を確信へと近づけていた。


(…確か…、渡された後、適当にロッカーの中に突っ込ンだから…もしかしたら…もしかしたら!)


廊下に陳列されている灰色のロッカーの12番目。
自分のロッカーの中を思い浮かべ、そのごちゃごちゃした中に数学の問題集が入っていると確信。

がくり、と両膝を床に落とした。


「い、いやだー!初日から学校に行くなンて!!」


思わず叫んでしまう葵。
ワックスを付けていないので、さらさらとストレートに流れる髪が頭を振るたびに揺れる。

しばらくそうして暴れるが、暴れてもどうしようもない。
さすがの葵も、決心を決めて制服に着替えて(私服で学校に行くと浮きまくるため)学校へと向かった。






夏休み初日から、運動部は盛んに練習を行っている。
夏休みが終われば新人戦。この期を逃すわけが無いのだ。
暑さで普段より汗が倍増し流れ落ちる。
しかし、どの運動部も必死に練習を怠らず声をあげていた。

その中でも陸上部は各々の種目練習に打ち込み、何度も記録を計ったりしていた。


「よし、休憩終わったらインターバル10本だ」


陸上部の面々に声をかけるは、顧問である鷹島。
彼もまた長距離選手と共に走っていたので荒い呼吸をし、汗がだらだらと流れている。
部員たちはその声を聞き、「はい!」と元気に返事をして部室へと戻っていった。

鷹島はその様子を確認すると、選手のタイムを計っていたマネージャーにも休憩しろと伝える。

そして自分も手持ちのドリンクを飲んで、どっかりと木陰に座った。
部員たちは部室へ戻るが、鷹島はいちいち職員室へ戻っていられない。ここでも十二分に休息が取れるので、いつも鷹島はここで休憩をしていた。

今、雨が降ったら校舎側のアスファルトから湯気が出るのだろうな、と暑さのせいでぼんやりとそんなことを思う。

ふと、そのアスファルトを見ていると。
何やら校舎の端っこでこちらを見ている金茶の頭がいることに鷹島は気づく。

目を細めてよくよく見れば。


(…あー…今日は雨が降るな)


夏休みに学校に来ないであろうナンバーワン(鷹島の中で)な葵がこちらをまじまじと見ていた。
本人は隠れて見ているつもりらしいが、明るい髪が目立つ目立つ。
バカだなぁ、と思いつつも鷹島は何だかその頭を撫で繰り回したくなり、気づかないふりをして立ち上がった。
わざとらしくドリンクケースを眺めながら、補充するかなーと顔に出す。

ちらりと横目で葵を盗み見れば、一生懸命鷹島を視線で追っていた。
なんだあの生き物、と噴出しそうになる衝動を押さえ、鷹島は葵の方へと歩いていった。
もちろん、知らないふりをして。


葵は気づかれたことを気づかないらしく、逃げることもなくじろじろと鷹島を見ていた。

そして、葵の隣を通り過ぎようとした直後。


「なに凝視してンだよ、斉藤!」

「ぎゃわー!?!?」

急速に身を翻し、軽い力で葵の背中を押して壁に押し付けた。
葵はぴったりと壁に引っ付いて鷹島を凝視していたので、より密着する壁に苦しめられる。

しかしすぐにそれは解放され、ほっと葵は息を吐いた。間もなく、


「お前ここで何してンだ?俺のストーカーか?」

図星を抉るような鷹島の高圧的質問。
葵はばたばたと両手を振りながら、必死に

「ちちちちげぇよ!ンな訳あるか!ワーク忘れたから取りに来たンっすよ!」

と否定。
何が楽しくてこの炎天下に好きでもない鷹島のストーカーをしなくてはならないのか。
そこまでは言わなかったが、葵は証拠にと先ほど持ってきたワークを鷹島に見せた。

ストーカー扱いは冗談なので、鷹島は苦笑しながら「冗談だっつの、つーか忘れモンすんな」と、やっぱり高圧的に命令した。

葵は少し拗ねたのか、ぶすっと口を尖らせ「はーい」と面白くなさそうに眉を潜める。
その様子を見て、思わずまた噴出しそうになるが、鷹島はふとあることを思い出した。


「あ、そうだ。お前これから予定空いてるか」


「え、あ、はい?」


「1度で理解しろよ…これから予定入ってるか?」

まさか罰掃除?と葵は怯えながらも「特に無い」と返事する。
しかし葵の予想とは裏腹に、鷹島の誘いは


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