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無言で顔を青ざめる鷹島を、さすがに心配になったのか葵はおろおろとしながら、

「あの、先生、…」

動かない鷹島の服の裾を軽く掴む。
もしかして、自分の童貞という事実がそんなにもショックだったのだろうか、と意味が分からないことを考えながら。
すると、鷹島は優しくその手を自分の服から離し、急いで自分の性器を下着の中にしまって服装を整えてから、葵の上から彼の横へ移動した。

思いつめたように正座を始める鷹島に、何だ!?とますます焦りながら葵もつられて起き上がり、鷹島の前に正座する。
意味の分からない行動だが、彼を止めるものは誰もいない。
そのため、セックスの後だというのに2人とも真面目な面談のようになってしまった。

葵の腰がずきずきと痛みを帯びてしまい、思わずしかめっ面になる葵。
しかし、その間もなく目の前の鷹島が勢い良く頭を下げた。
いわゆる、土下座というものである。
いい大人の男が土下座をするなんて、滅多に無い事だ。
おかげで、葵の目がまん丸になった。



「…すまん、斎藤…!許してくれとは言わねぇ…思う存分俺を殴れ」



鷹島は、口が悪くて多少高圧的な若い教師。
だが、彼はいたってまじめである。
生徒たちに体を動かす楽しさと、柔軟な体で将来危険から回避できるようにと立派に大学を出て、懸命に努力し教師になった人だ。
教師になるという思いは誰にも負けない位、熱心で真面目な鷹島。

自分から生徒に猥褻したり、ましてや無理やり性行為を行う人では決して無い。
更に男を抱くような趣味を持った人間でも、同性を愛する人でもない。
彼は生まれて初めて男を抱いた。(知識は半ば持っていたけれども)

そんな鷹島の真面目さは、葵はもちろん彼に関わった生徒全員が知っている。

葵はまさかの鷹島の土下座に「凄いものを見てしまった!」と謝られているというのに他人事のように心の中で喜ぶ。
しかし、そんな真面目な鷹島がなぜ、葵を強姦してしまったのだろうか。
葵はおずおずと頭を下げ続ける鷹島の顔を身をかがめて覗き込み、問うた。


「あの、…何で、せっ、せっく、…せっくす、しちゃったンすか?」

セックスという単語を口に出すのが恥ずかしかったのか、もごもごとしながら聞く。
普通聞くところは「何でこんなことをした」とかだ。
ましてや普通は恐怖でその場を逃げるか、男ならば相手の顔が腫れ上がろうと胃液を吐こうとも殴り続けるだろう。

しかし、葵にはその選択肢は無かった。
鷹島は葵の顔を二度三度見た後、ゆっくりと頭を上げ、言いにくそうに呟く。


「あー…、実はお前ン所に行く前に他の生徒の親召還の面談してたンだよ」


葵はまだ親召還されたことが無いが、他にもこの学校には服装が悪く素行も悪い生徒は結構いる。
葵は服装は悪くも素行はあまり悪くない。携帯はいじるが。
その素行が悪すぎた生徒と親と三者面談するのは担任教師はもちろんだが、最近は生徒指導担当の鷹島が大体任されている。

理由は言わずもがな、母親の反応である。
スラっとした筋肉質の爽やかな若い男前が現れれば、もうご機嫌。「ほんと言い聞かせますから!」と言ってバシバシ生徒を叩くので生徒も恥ずかしくて仕方ない。よって止める。


なので鷹島も機嫌が悪くなる要素は無いはずなのだ。
だが、今の時代そんな親ばかりではないことは鷹島も知っている。
しかし、今日の今日まで「そんな親はいないだろう」と軽んじていた。
そこに現れたのが、今話題の。


「今日の親はな…最悪な…あれだ、モンスターペアレント…」


思い出した苦い状況を、鷹島は大きな溜息を吐いて説明し始めた。


夏休み前だからか、ある生徒が浮かれまくって調子に乗り、消火器を思い切り教室にぶちまけたのだ。
スキー場!スキー場!とかげらげら盛り上がる中、もちろん鷹島はそいつをとっ捕まえる。
彼が初犯ならば、鷹島も厳重注意と罰掃除くらいで済ませていたのだが、実はその消火器のヤツは以前から校則違反をしまくっていたのだ。

ゆるくかかったパーマは茶髪。ピアスはお前耳を蓮の花にする気か?というくらい開けている。
そして毎度遅刻な上に欠席も多い。
成績がまだ中の上だけマシである。


だが今回はひどすぎた。
消火器は予想以上のお値段なのである。


担任は出張でいないため、いつものように鷹島と生徒と生徒の母親で三者面談を始めた。
いつも通り終わるだろうと思っていた矢先、この母親がとんどもないことを言い出したのである。

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