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「なにこの若い先生は…舐めてるのかしら私を?」


いきなり鷹島を見下しながら文句を付け始めた。
見た感じ成金臭がぷんぷんするので嫌な予感は鷹島もしていたが、まさかの大当たり大ヒット。
まだ遭遇したことの無かった俗に言うモンスターペアレントに、鷹島は一瞬頬を引きつらせた。

しかしだからといって「あ、ごめんなさい変わります!」と言える訳も無い。
鷹島はひとつ咳払いをして、


「…自分が生徒指導担当をしてまして。鷹島と申します。今日、昭雄くんのお母さんをお呼びしたのはですね…」


とにかくさっさと終わらそうと説明しようとしたとき、問題生徒の昭雄が手わすらを始め出した。
しかも口笛まで吹いている。なんだこいつ舐めやがってと、鷹島は反射的に机を軽く叩いて、


「伊藤、ちゃんと座ってろ」

と注意する。
だが、それが失敗だった。


「まぁ!なんて短気な先生!絶対これ昭雄ちゃんが悪いんじゃないわ…あなたが勝手にすぐ怒ったんでしょう!?最近の先生はこれだから…」


わなわなとわざとらしく震えて、おお怖い怖いとアクション。
鷹島はぽかんと口を開ける。
ちょっと注意しただけで短気…確かに自分は少し短気な方かもしれないが、そんなに厳しく叱った覚えは無い。
しかも隣の昭雄はかなり調子に乗ってる「ママ、帰りたいんだけど」なんて言って。

この年でママかふざけんな…!と心の中で舌打ちするも、これ以上刺激してはいけない。
とにかく穏便にいこうとなんとか殴りたくなる衝動を必死に抑えて、もう一度めげずに説明を始めた。



「普段から、校則違反の髪型と髪色をしてまして」


「まぁ!おしゃれしてはいけないと言うの?自由を奪う気なの?」


「…学生ですから学生らしい髪型をしなければなりません。あと、服装も乱れていて…」


「若いうちにおしゃれはするものでしょ?服装も乱れてなんていません!見てくださいとてもかっこいいでしょ?あなたなんてなんですか、そのだっさいジャージ!」


「規律は守らないといけません。そして俺のことはいいです」


「あなたみたいな、顔だけで女をだましてファッションに気を配らない人がうちの子にとやかく言う資格はありません!帰ります」



さっさと、終わった。
鷹島に反論の隙も与えない、ある意味プロ中のプロである。モンスターペアレントの。
さすがに鷹島に申し訳ない思いで放心する生徒を無理やり引っ張って、母親は帰っていった。


鷹島もしばらく放心する。
が、ふつふつと湧き上がる怒り。
理不尽すぎる親に、鷹島は外に誰もいないことを確認して思い切り机を殴った。


(何だあの親はよ…!?ジャージは職業上着てンだっつーのに!!)


おかげでイライラしたまま、教室を巡回して。
そして偶然に斎藤の話を聞いてしまったのである。
それが、イライラの原因で、積もり積もったイラつきを更に葵の言動で爆発させてしまった。

そう、鷹島は説明し終えた。

また深く溜息を吐き、


「…俺は最低だな、私事でお前をひどいめに…」


深く反省と後悔をした。
いくらイライラしていたとはいえ、葵を犯していい理由にはならない。
もう一度謝ろうと、鷹島が頭を下げようとしたそのとき。


ふわふわと頭に何かが往復する。
それはとても心地よくて、子供の頃以来経験していない温かみ。

鷹島はゆっくりと顔を上げる。
目の前には困ったような、慈しむような表情を浮かべた葵がいた。



「斎藤、」



「…せんせい、大丈夫、だいじょうぶっスよ」


よしよし、と慰めるような、あやす様に葵はひたすら彼の頭を優しく撫でる。
綺麗な黒髪はウルフカットの割にはツンツンしておらず、やわらかい。
わしゃわしゃと髪型が崩れるが、葵はそれでも撫でた。


こんなにも自分を追い詰める人、見たことが無い。
真面目で、やっぱり優しくて。
でもそんなに落ち込む鷹島を、葵は見ていられなかったし、苦しい思いをしてほしくなかった。



鷹島は、ゆっくりと息を吐く。
涙がじわりと出そうになるのをこらえて、目の前の葵をやわらかく抱きしめた。
それこそ、温かみに縋るように。


葵からは不思議と落ち着く香りがする。
鷹島は初めてしっかりと触れる体の抱き心地のよさに、心が浄化されてゆくのが分かった。
抱きしめられてもなお、今度は後頭部を何度も撫でる掌にも、癒されてゆく。



夕日が2人だけの空間を優しく照らした。


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