それは崩壊か進展か
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1ヶ月というものはあっという間に過ぎ、明後日から夏休み。
生徒たちは期末テストも終え、後は楽しい楽しい長期休みだけなので浮かれまくっている。
夏休みどこ行くーだの、この夏は絶対彼氏彼女作るだの。

真面目に勉強に取り組む気は0。
もちろん葵もそんななかの1人だ。


「竜一っ、今日これから家に来いよ!夏休みの計画立てよう!」

「いいのか?…お兄さんいんじゃね?」

「兄ちゃんなンか気にすンなって!なぁ高平ブラザーズ」


なぜか紙飛行機を懸命に作っていた高平兄弟は、葵の声にぴくりと反応し、犬のように葵の下へ駆け寄る。
どれほど懐いているんだ、と友達ながら竜一は若干高平兄弟に呆れた。
そんなことなど露知らず、自由すぎる高平兄弟は。


「そうそう!竜一ったら何気にしてンの〜?」

「気さくで優しいお兄ちゃんじゃないか?なーに、好きとかぁ?」

今度は竜一をターゲットにしてからかい始める。
友達をホモ扱いして何が楽しいのやら、と葵は呆れつつ「そんな訳ねーだろ」とフォロー。
するが、竜一は「そうだよボケ」とも言わず、ただ黙る。
そんなにあの兄が嫌いなのか、と思い顔を覗き込むと。


「…竜一?」

「あ、!?いや、ちょっと暑くてボーッとしちゃって?あはは…」

取り繕った笑顔で、何とか竜一はごまかす。
が、頬が赤く染まっているのを見た葵は。

「大丈夫か!?保健室とかっ」

バカでよかった、と竜一を思わせる対応を始めた。
わたわたと慌てると、そんな葵に当てられて高平兄弟も「大丈夫か」と心配し始める。
全く困った友人たちである。

「大丈夫、大丈夫だから!つーかほら、夏休みの計画立てンだろ?」

大体バカなので次の話を切り出せば、すぐにそちらに飛びつく。
その通り、葵は瞳をきらきら輝かせて、


「今年は、海行くよな!俺は焼いてぇ、キンパにする」

彼女作るぜ、と張り切るが、あっさり竜一に

「ムリムリー、葵真っ赤になって終わりじゃん?」

と図星を突かれてしまった。
そうだよなぁ、とへこたれながら葵は帰る準備をようやく始めた。

最近、テスト期間でさすがの葵も服装を整えて尚且つ鷹島が出張。
なので、最近罰掃除無しで直帰できている。

それはそれで、遊びに行けたりギターの練習が出来たりと充実しているのだが、何となく葵は物足りなかった。
そんなに掃除が好きになったのか?と心の中で自問自答しながらぼんやりしていると。



「お前、金髪にしてきたら速攻全校生徒の前で丸刈りショーすっぞ」


背後から、低い声が降って来た。
あまりの恐怖宣言に、葵は「ええ!?」と叫びながら勢い良く後ろを振り返った。
そこには案の定、久しぶりの顔が。
しかし、なにやらいつもより機嫌が悪いのか、凄んだ顔がより恐ろしいことに。もはや鬼。

葵どころか、隣に居た竜一や高平兄弟までも震え上がる。


これは罰掃除どころか親召還なのではないか。
因みに葵の親は両方とも現在長期出張と単身赴任で居ない。
兄を呼び出されるかもしれない、と葵はぼそぼそ竜一と高平兄弟に相談した。
すると、高平兄弟から、


「お、俺たちがいつも言ってるジョークを言うンだ!そしたらちょっと何とかなるかも!」

「うんうん、今クラスも空っぽだし!」


と、間違ったアドバイスが贈られた。
いやいやそんなこと言ったらますますブチ切れるだろ、と竜一が別の案を出そうとしたところ、だった。
葵は思い切り鷹島に抱きつき、


「や、やだなー先生!そンなに怒るなよッ、お仕置きは身体になら大歓迎だぜっ?」

変なことを言いながら、わざとらしくすりすりと擦り寄る。
高平兄弟は声を出さずに爆笑、竜一は呆然。
普段から、葵は「超好き、抱いてぇー!」などふざけて竜一に抱きついたりして遊んでいるのだが、鷹島には一度も無い。

案の定、鷹島の動きはピタリと止まった。


「よし、竜一行くぞ!」

「え!?どこに!?」

「先に葵の家行ってよう!今日兄ちゃんいるって言ってたから鍵は開いてるっしょ!」

こそこそと数秒で計画を決め、竜一と高平兄弟は動かない鷹島に疑問を抱きつつ、

「じゃあ、葵!先行ってっから!」

と、葵にとって最悪極まりない裏切りの言葉を告げて教室を飛び出した。
その言葉を聞き、葵は慌てて鷹島の体から離れる。
早く3人を追いかけないと、自分を置いて夏休みの計画が決められてしまうのだ。

走ろうと足に力を入れた瞬間。
その足は地面に着いていなかった。


ふわり、と浮く身体。
そういえば前にもあったなこんな感覚、と頭の冷静な部分がふと思い出す。
実際、その思い出の通りで、彼はまた鷹島に担がれてしまったのだ。


「え!?何で!?」

「うっせ!思い切りシャツ出てンだろうが!その上ベルトも派手だわ、相変わらず髪は長いわ、校則違反だろうが!それになんださっきのキモい行動…!」


担がれても可笑しくない理由のオンパレードに、葵はうっと息詰まる。確かに、もう鷹島は来ないだろうと気を抜いてだらしない格好をしてしまったのだ。
そのうえ、機嫌の悪い鷹島に先ほどの意味不明な行動で火に油を注いだ状態。
それでも、先ほどよりは暴力の危機も無いので、葵は必死で、


「ほ、ほんとだぜっ?俺センセのこと好きだしっ、抱いていいよ!」

と、ごまかしてまた動きを固めようとする。
ピタっと先ほどのように止まれば突き飛ばして逃げれるからだ。葵のアホな脳内には「鷹島は体育教諭」ということをすっかり忘れているが。

しかし、鷹島は止まるどころかスピードを速め、



「あ?冗談はいい加減にしろよ?今日は特別に体育館と体育館職員室の罰掃除だ」

「ひぃいい!?めっさ広いいぃいい!!」


と、葵にとって地獄な罰を突きつけた。

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