4.
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そよそよと頬に当たる心地よい風。
ふかふかとした心地に、望月はゆっくりと目を開けた。
目の前に広がるは真っ白い天井。
俺は病院に運ばれたのだろうか、と痛む顎と頭を撫でながら、周りを見渡す。

カーテンで遮られた空間。
やはり病院か、とため息を吐いた。
俺も油断したなぁと思いながら。

すると、シャッという音が横から響き、望月は反射的に振り向く。
そこに居たのは看護婦ではなく、


「あ…、起き…ましたか」


きらきらと光る金茶の髪。
申し訳なさそうにはにかむ顔。


「…えっと、…」

名前は分かる、確か晃一だ。だが、望月はそれをいきなり言うのは何だかなと思って必死に名簿を思い出していた。
端の先頭ということは名簿の一番最初。
思い出せるはずだと唸る。


「あ、赤井っス。赤井晃一」

その唸りで察したのか、彼は自分の名を名乗った。
やっと彼の名を覚えられた。と望月は安堵の息を吐きながら、ここはどこかと尋ねる。
わざわざ病院まで来てくれたなんて優しい生徒だなと思いながら。

しかし、赤井は首を傾け


「ここは保健室っすよ?」



と、あっけらかんと返した。
慌てて起き上がると、赤井が慌ててまだムリしないほうが!と止める。
望月はそこで改めて、赤井の姿をまじまじと見れた。
相変わらず不良のような金茶の髪は肩にまではいかないが長い。しかし、それが気持ち悪くないのは顔立ちのおかげか。
髪が長いのは整ってる顔より、地味目な顔のほうが似合う。
タッパは平均よりはあるだろうに、見た感じあまり筋肉が無い。しかし、先ほど小柄で細めの女子生徒を見る限り彼もどうだか分からない。

望月はまた唸る。
すると、何を思ったか赤井は慌てて、


「ひより!ほら、謝ったほうが良いって!ぜってぇ」

「え?先生起きたの?早く言ってよ!」

ひよりを呼んだ。
望月はもしかしてさっき自分並びにクラスの男子生徒を壊滅状態にさせた張本人かと気づいて見れば、案の定そこには先ほどの小柄な女子生徒。
ひより、という名に若干聞き覚えがあるが、特に気にせず彼女の頬に張られたガーゼを見た。


「…お前、女の子なのに顔に傷…大丈夫か?」

「え、はい…こんなん3日もあれば治ります」

「タフだな…」

さすがだな、と望月は思いつつ微笑んだ。
すると、彼女は落ち着かなさそうにもじもじしながら、項垂れて

「その、ごめんなさい、私…暴走すると周り見えなくなってしまって…先生とみんなを…」


落ち込んでしまった。
望月はゆっくりと彼女の顔を覗き込む。
泣きそうに歪んだ子どもの顔。
子どもなのに、周りの不良の子どもと違って暴力の鞘を必死に探している。

望月はベッドから起き上がり、
ゆっくりと手を伸ばす。
彼女の小さな頭に。

ふわふわとしたくせっ毛。
暖かい髪に、望月はふっと笑った。


「それ、みんなに言おうな」


「先生…」

「ま、俺は簡単には壊れねーようにできてっから」

ぽんぽん、と頭を軽く叩く。
そういえば頭殴られてたか、と望月は慌てて手を離す。すると、項垂れていた彼女がばっと顔をあげて、
泣きながら笑った。


「先生って、ともだちみたいだ」

「あー、どうも」


その笑顔はとても美しくて、可愛い。
少し照れながら望月はその涙を拭いてやる。
すると、保健室の外からなにやら騒がしい足音が響いてきた。
3人は不思議に思ってドアの方を見れば、そこにはクラス全員とまではいかないが3組の生徒がぞろぞろと湧き出た。

入学式もHRも終わったというのに、わざわざ学校に残っていたのか、と望月は目を丸くする。

すると、HRで望月を「もちつき」とバカにしていた男子生徒が険しい顔つきで望月に近づく。
そして、


「せ、先生大丈夫すか!?」

「…え?」

人を心配するような人物には見えないのに、開口一番がそれ。
彼の見た目は明らかにちゃらちゃら遊んでそうな部類。望月は理解できずにいるも、とりあえず「ああ大丈夫だ」と返事する。
が、次々に他の面々が


「脳挫傷とかンなってないっすよね?」

「アイツの蹴り半端無いっすから…腕とかも!」


と口々に心配する。
よく見れば、先ほど彼女にぼこられた面々ばかり。
望月は彼らの手当てされた体を見て思わず、


「俺はいいから、お前らは大丈夫か?」


と言えば。
しん、と静かになる保健室。
変なこと言ったか、と望月は目を逸らし始める。
ただでさえ入学式早々意味不明な展開になったというのに、これ以上問題ばかりでは赴任したくなる。
しかし、彼らの反応は違った。

皆、顔を合わせてへにゃへにゃと笑う。
そんな顔も出来るのか、と目を丸くした。
なんともねーよ!と粋がって自分の腕を叩く者、俺も俺もと便乗する者。
望月が「怪我を叩くな、痛いだろ!」と注意すれば、すいませんと言いながらもへらへらと笑う。

その笑顔を見て、ふと望月は勘付いた。
まだ望月が若いからこそ分かる彼らの心情。


(…こいつら、心配されたいんだなぁ)


きっと周りの大人に「大丈夫か?」なんて言われなかったのだろう。
だからこそそれが嬉しい。

だが、


(まぁ…やっと仲間の部類くれぇか…)

彼ら不良は意外にも団結力というか、自分の仲間に対しては異常な執着を持つ。
それを自分に向けてくれたぶん、やっていけそうかなと望月は内心微笑んだ。


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