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入学式はいたって真面目…な訳が無かった。
おしゃべりという範囲を超えたもの、堂々と化粧をするもの、眠るものと様々な子どもが居る。
教師席で、望月はやれやれとまたため息を吐きながら自分のクラスの連中を見つめた。

先ほど、とりあえず案内だけと先頭を歩いてきたのだが列など作りもしない。
べちゃくちゃと喋るだけ喋って寝ているものがほとんどだ。

校長にアドバイスされた「東條ひより」を探そうとしてもその集団的なバラバラ具合のせいで探せない。

望月はどうしたものか、と思いながらふと自分のクラスのある1人を見つめた。


茶に近い金髪で、ピアスが軟骨まで付いている。
背も高いほうなのだろう、典型的な不良の容姿をしている。
が、顔は特に不良顔という訳ではなく、地味に近い普通な顔立ち。まだ垢抜けていないのだろう。
問題はそこではなく、彼がまっすぐ来賓の方を見て話を聞いているということだ。


(意外に真面目なのか)

と、感心した。
が、直後彼の瞼が急に落ち始め、カクンカクンと体を揺らし始める。ああ、こいつ寝るなと思ったら、慌てて起きて話を聞く。がそれも長くは続かない。

(おもしれぇなぁ)

思わず喉を鳴らして笑ってしまう。
不思議に思ったのだろう、隣の席の波川教諭は首を傾げて望月を見つめた。







望月は、大量にある配布物を抱えながら不安いっぱいに廊下を歩いていた。
目指すは朝も訪れた担当クラス、3組。
だが、校長の言っていた通り問題児の巣窟であるそこに行くのは非常に胃を傷める。
今日、帰りに薬局でも寄っていくかと思いながら、教室の前まで差し掛かった。
案の定、教室の騒がしい声は廊下にまで響く。保護者が別室で保護者会を受けているのも相まってそれは軽く公害の騒音レベル。

どう言って止めさせればいいんだ、と望月がため息を吐いたそのとき。


ふらふらとハンカチで手を拭きながら目の前を通り過ぎようとする生徒が1人。
茶に近い金髪で、若干長い髪。
ピアスが軟骨までにも付いて、顔は地味というか普通というか、垢抜けない顔。
紛れもない、先ほど入学式うつらうつらしていた人物だ。

望月は、彼の行動を見て少なくとも性質の悪い不良ではないと決め、声をかけた。


「おい、お前俺のクラスだよな?」


「え…」


ゆっくりと振り向く男子生徒。
だが、予想外に彼は一瞬にして顔を歪め、あわあわとハンカチを落としながら耳を塞いだ。
もしや対人恐怖症か?と望月は不安になり、慌てて「いや、別に叱ろうとは」と言いかけたが、それを言う前に目の前の少年は首を懸命に横に振る。

「ピッ、ピアスなんてしてませんっ!」

「…は?」

どうやら耳を塞いだわけではなく、ピアスを隠しているらしい。
この、校則なにそれおいしいの?状態の高校でなにを今更言っているんだ、というかではなぜピアスを空けたんだ、と望月は驚きを超え呆れた。

「いや…お前、金髪で今更…それ、地毛か?」

「は、いえ、あ、…!地毛、!?か、かつらじゃないでス…!!」

すると彼は、ばたばたと暴れながら頭を抱えて丸まった。廊下の真ん中で、それは隠れたつもりか。
若干震えているその体に、思わず望月は悪戯をしたくなり、後ろからそっと近づいた。
案の定気づきもしない。なんてバカなんだろうと思いながら、望月は隙だらけの脇腹をくすぐる。

「え!?あ、うあははははっ!?」

「お前、入学式で寝そうになってたろ?」

「ひぇえ!すみませ…うわ、そこは、ちょ、だめあひゃひゃひゃひゃっ…!!」

けらけらと笑いながら、ころころ転がって逃れようとする。が、望月のほうが体格も良いので逃げられるわけも無く、涙が出るほどくすぐられた。
その無邪気な笑顔と逃げ方に、望月は「ああ、まだ子どもなんだな」としみじみ思う。
しばらくくすぐって遊んでいると、ぱたぱたと軽やかな足音が2人に近づいてきた。


「こうちゃん何やってンの…!?」

現れたのは、小柄な少女。
小柄と言っても150後半はあるだろう、一般的な少女の体型だ。
小動物のような瞳をくるくるさせ、望月と少年を交互に見る。
どうやら、こうちゃんと呼ばれているのはこの少年らしく、望月は「彼女か」と呟いた。

そんな呟きも聞こえないのか、彼は慌てて望月の下から這い出て、少女の下へ駆け寄る。
はいはい怖かったね、と彼女が慰める様子を見ると、どうやら彼らの関係は姉さん女房とバカな彼氏といったところ。

望月は安堵のため息を吐きながら、教室入るぞと話しかけ、扉を開けた。



彼は気づかない、その少女があの「東條ひより」ということを。

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