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次の日、祐樹はシフトが入っていなかったので早速望月に勉強を見てもらうことにした。

ちょうど望月も残業が無かったので、2人は駅前で待ち合わすことにした。全てひよりの配慮なのだが。
やっぱり気を使える子なのだな、と祐樹は思いながらぼんやりとバスの外の景色を眺める。

西條の幼馴染という人は、西條の過去のことをどう思っているのだろうか。
自分がしゃしゃり出るような問題では無いのだが、祐樹はずっとソレが気になって仕方ない。

気づけば、待ち合わせ場所であり祐樹の降車する場所の浅見駅前にとバスが辿り着いた。

学生でごった返す駅前できょろきょろと望月を探す。
車で来ているのか、徒歩で来ているのか分からないが、あまりにも人ごみが凄すぎて誰が誰だか判別が付かないくらいだ。

望月の髪は、明るめで結構見つけやすいのに、なかなか見つからない。
祐樹が諦めて一旦駅のはずれに向かおうとした、そのとき。

ぐい、と腕が引っ張られた。
いきなりの力に、祐樹は呆然としてしまい、その手に引かれるまま着いて行くと、駅の横の駐車場に着いた。
やっと、腕を掴んでいた人物が祐樹の目に映る。

西條と同じくらいの身長、オレンジ系の明るい髪、黒縁眼鏡、上着はジャージ。


「も、望月先生、」

「ああ、よろしく岡崎くん」

にこ、と優しく笑う望月に、祐樹は安堵する。
勉強を見てくれることは嫌々引き受けた訳ではなさそうだ。
よろしくお願いします、と例をしながら告げ、祐樹は言われるがまま望月の車へと乗り込んだ。

所帯を持っている訳でもないのに、望月の車はワンボックス。今まで大きな車に乗ったことが無い祐樹は、思わず後部座席に乗り、きょろきょろと車の中を見渡した。


(背もたれ倒したら寝れンのかな?)

と、気になって仕方ない。
そんな祐樹をミラーで覗き見ながら思わず望月は笑ってしまう。
近隣では有名な進学校に通い、しっかりバイトもしているので真面目な子なのかと望月は思っていたが、予想とは違いアホっぽいのだ。

仲良くなれそうだ、と思いながら望月は車を自宅へと走らせた。



20分後、浅見の隣の隣町に着く。
そこはやっぱり西條の地元と同じ。
当たり前なのだが。
祐樹は1つお礼を言いながら降車する。望月の後ろを着いて行けば、そこには少し小さめのアパートが建っていた。
なんだか見たことがあるな、と祐樹は思いながらふと周りを見渡す。

すると、奥のほうに何やら見知った看板。

「…あれ?ゆづきさんのお店に近いのか…」

そこには祐樹の呟いた通り、スナックゆづきがあった。まだ夕方なので準備中の札が掛かっているが。
すると、望月は心底驚いた顔をして振り返る。

「え?ゆづき姐さんの店知ってンのか!?その年でスナック通い…!?」

「え!違う、違うっすよ!その、ゆづきさんに前なんか連れて来られて…」

スナック通いする意味の分からない高校生と勘違いされたくないので、祐樹は両手と頭を同時に振って否定した。
すると、望月は呆れた様に苦笑して、

「ああ…確かにあの人は気に入ったの連れてくからなぁ…一歩間違えたら拉致だ」

「そ、そうなんすか…」

一度しか会っていないが、確かにそれらしい感じの雰囲気だ。気に入ったらどんどんスキンシップ!と言っていそうだ彼女は。

祐樹は半ば呆れながらも、彼女から西條の過去を聞いたので蔑ろには出来ない。
今日、帰りにちょっと寄っていいか聞いてみようかな。と相手が教師なのも忘れて祐樹はぼんやりと思いながら望月の後をひょこひょこと着いて行った。


案内された部屋は、居心地の良さそうな1LDK。
全体的に白黒で統一されており、オシャレだなぁと祐樹はまたきょろきょろと辺りを見渡す。

望月はまた笑いながら、「その辺に座ってくれ」と促した。
なんだか動きが小動物のようだ、と心の中でほくそ笑みながら祐樹のためにキッチンで紅茶を準備する。

一方祐樹は、テーブルに置かれた数Aの教科書を黙々と眺めていた。数Aはとっくに終わったのだが、意外に受験では出やすいので復習が必要である。
だが置いてあるのは望月の指導用教科書。
付箋や書き込みがたくさん貼り付けられていた。

(あ、数学の教科書…そっか2年担当だから数Aか…俺ン所は1年の時に終わったからなァ数A)

凄く分かりやすく解説しているのだな、と感心しながら紅茶を持ってきた望月を見やる。

「砂糖はいくつ欲しい?」

カチャカチャと砂糖とミルクの入った入れ物の音を出しながら望月は問うた。

「えっと、5こ…」

「そんなに!?」

「え!そうなンすか!?」

2人ともびっくり。
普通は2こ程なのだが、祐樹は甘い方が好きなので雄太の家に遊びに行って出される紅茶には5こも入れるのだ。因みに雄太の家族はみんな慣れた。
望月は甘党なのか、と笑いながら律儀にちゃんと5こ数えて入れてあげた。

これが西條だったら爆笑且つバカにされる。
こんな時になんで西條を思い出すんだろうかと、祐樹は自己嫌悪しながら、素直に紅茶を受け取ってちょびっと口に含んだ。

口内に広がるダージリンの香り。
それはとても、知的な望月には合っていた。


「じゃ、始めるか。岡崎君のところは進学校だから数学は大体終わってるよな」

望月も自分の紅茶を一口飲み、指導用教科書を次々と取り出した。
そこには数学だけではなく古典や英語も。
古典や英語はさすがに指導用ではなく解説用のものだが。

「俺古典と英語も一応教えられるから」

免許は取ってないけど、と笑って言う望月に、祐樹は感心の眼差しを向ける。
こんな先生が自分の学校にいたら、女子生徒はとても喜ぶだろうなァと想像しながら。

祐樹はとりあえず、目的である数学の中から数Bを選んだ。ベクトルが今ひとつ苦手である。
了解、と望月は一言言った後そのページを広げた。


「具体的に分からない所ある?」

「えっと、空間ベクトルの内積がちょっと分からなくて…」

「ああ、あれな。あれはな…」

ゆっくりとした空間に、望月の分かりやすい解説が響く。
個人的に解説されたのは初めてなので、祐樹は多少戸惑うか、それもすぐに慣れてするすると理解した。

奈多高の生徒と違い、ちゃんと理解してくれて質問や問題にもちゃんと答える祐樹に、望月は感動しながら自分の持てる技量をとことん費やす。

2時間は経過していたことに気づかぬ程に。


さすがに疲れてきた2人は、今日はここまでにしようと区切りをつけた。
すっかり冷めた紅茶を飲みながら、祐樹は肩の力を抜く。
望月のおかげで、分からない部分がだいぶ無くなった。これで来週に控えた模試は大丈夫だろうと安堵の息を漏らしながら望月に告げた。

ふと、望月は何気なく聞いてみる。

「数学以外は大丈夫なのか?」

すると祐樹は首を傾げながら、

「んー…化学がちょっと心配っスかね…」

あまり自信のない化学をあげた。
嫌いな訳ではないのだが、今ひとつ頭に入ってこないのだ。
しかし、化学は望月もあまり得意ではない。
大学に入って取らなくてもよくなったので、むしろ今では専門外だ。

どうしたものか、とすっかり親身になった望月はふと、知り合いの顔を思い浮かべる。
それは、祐樹も知っている人物。



「瑞樹…じゃ分かンねーか?西條に化学教えてもらえよ。覚えてるか分かンねぇけど、アイツ理科は学年首位だったからな」


びくり、と祐樹の肩が揺れた。


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