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焼酎を飲んでしまったので運転が出来ない。更に西條の住むアパートまでは車で15分以上かかるらしく、結局また祐樹の部屋に宿泊となってしまった。
「わりぃ、世話になるな」
「いや、俺が誘ったンで…」
1人部屋に布団を2つひくと、案の定くっついてしまう。以前は西條が風邪をひいていたので、ムリに隅っこに敷いたのだが、今回は違う。
多少酔っているくらいなので、祐樹も気をつかう(といっても多少は遣うが)事もなく真ん中に2つ敷いた。
今日は晴れていたから布団を干したのだろう。
ふかふかで太陽の香りがするそこに、祐樹は風呂上りで温かくなった身体をダイビングさせた。
「お前…17で布団にダイブかよ」
「み、見てたンすか!」
「いや、目の前だし」
西條はアホだな、と若干口の端をあげながら、隣の布団へ入った。
祐樹は未だ誰かと一緒に(しかも年上の他人)と寝るなんて慣れなさ過ぎてつい素になってしまったのだ。その結果が子どもすぎる所。
あまりの羞恥に、西條に続いて逃げるように布団にもぐりこんだ。
その後電気を消すために、いそいそ出てきたのを西條に笑われてしまったが。
真っ暗な中、遠くでフクロウの鳴き声が聞こえる。
ゆるやかにぬるい大気と時間が流れることはいつも通り。だのに、隣に人が居るからかそれとも西條が居るからか。祐樹は眠れないでいた。
何度も何度も寝返りを繰り返し、思わず隣で眠る西條を凝視したりと落ち着かない。
その動きに西條もさすがに気づき、首だけを祐樹のほうに向け、
「…何、お前寝れねぇの?」
と問えば、祐樹は一瞬身を固め、寝たふりをした。
どんだけアホなんだコイツ、と思いながらも西條はそれが可笑しくて思わず布団に手を忍び込ませ、適当なところをつねってみた。
「うぎゃぅ!?」
びくり!と身体を跳ねさせ悲鳴というか奇声を上げた。西條は思わず爆笑するが、隣に彼の祖父母が寝ているので喉奥でクククと笑う程度に何とか済ませる。
だが、思い切り声をあげてしまった祐樹は、
「何てとこつねるンすか…!」
と、唇を戦慄かせた。
西條はその表情に、何とか先ほどの感触を必死に思い出した。
確か若干こう、コリっとした感じが。というより肉といえば肉だが身体の突起物的な。
そしてその真っ赤にした顔。
「…あー、わり、小さくて気づかなかった。大丈夫か、勃起しちまったか?」
「うううううるせぇ!してない、してねぇ!変態!」
ククク、とまた意地悪に西條は笑う。
適当とは言え、まさかのクリーンヒット。西條がつねったのは(というよりはつまんだ)のは祐樹の陰茎付近だったのだ。
男のシンボルをいきなりつままれて奇声をあげない男は居ないだろう。
(し、しかもちょっと勃っちゃったし…!西條さんの変態変態変態)
祐樹は心の中で西條に悪態を吐きながら、何か別の復讐をしようと作戦をめぐらせる。
やり返すことは不可能に近そうだからだ。狙って出来るが、触りあうとか理解不可能なことはしたくない。
変態というキーワードで、ふと思い出すは無駄にキラキラした変態王子。
これだ、と祐樹は思いつく。
まだ笑いの余韻が残っている西條の顔をじっと見つめながら、
「…西條さん、それ中條くんにやったら喜ぶんじゃないっすかぁー?」
なんて意地悪く言ってみた。
案の定、笑いも消し飛んで一気に険しい形相になる西條。今の彼にはきっと一番の劇物だろう。
何だか弱みを掴んだみたいで面白い、と祐樹はいつもからかわれる立場を逆転させて喜んだ。
「中條くん、西條さんとキスしたいって…キスしないと無理やりするって言ってたっすよー」
「…はぁ!?マジかよ…!!」
無理やりとまでは聞いていないが、頑固になるのは確かだろうと祐樹は脳内で再確認しながら更に追い詰める。
しかも、倉庫で逃げられないようにダンボールとダンボールの間に押し込むだとかあわよくば肉体関係だとか。祐樹もその辺はよく分かっていないのだがあること無いこと吹き込んでみる。
西條の顔はますます険しくなる。
酒の力もあってか、イライラした口調で
「っざけんなよあの変態王子…!俺が男とキスなんざできるかっつの…!!」
と、小さく呟いた。
祐樹の心臓が、跳ねる。
フラッシュバックするは、自分があの日西條にされた温かいキスで。
ぐるぐるとそれはマーブリングし、目の前を真っ白にさせた。
自分でもその動揺の意味が分からない。
ただ、疑問と不安が入り混じっていることだけが、分かった。
思わず、祐樹は準備もしていなかった言葉を紡ぐ。
どこにあったかも分からない、疑問を。
でも確かにあの時から心の奥底にあったもの。
掠れる声で。
「…じゃあ、
なんで、俺に、…したンですか…」
それは泣きそうな声にも、聞こえた。
西條はゆっくりと、逸らしていた視線を祐樹へと送る。言葉も出ずに、ただ。
彼の瞳に映ったのは、困ったような顔をしている祐樹の顔。それが、なぜかひどく可愛く思えた。
焼酎飲んだからか、と西條は自分に呆れつつも、その潤んだ瞳から目が離せない。
答えが出ないのに、手が出た。
気づけば祐樹の唇に、指先を這わせている。
「…ンでだろうな…」