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「そんな大げさな」

そう、祐樹は笑って言うが、目は笑っていない。
あまりにも西條が本気の声を出しているからだ。
中條のセクハラ…であるかどうかは分からないが、性的なアプローチによって、西條がどこか遠くへ行ってしまうのは、嫌なのだ、祐樹にとって。

それを本人は、ちゃんと理解していないのだが。


そんな祐樹の本心など知るわけのない西條は、ため息を吐きながら淡々と話す。
業者から入ってきた商品の在庫チェックをしながら、


「そういや、岩手の支店が声かけたな…」

「い、岩手!?」

祐樹の頭にとっさに思い浮かぶは、日本の都道府県面積第二位というなんともまあ地理的な映像。
想像につかないが、あまりの距離に驚くどころか現実味が無い。

岩手の名物ってなんだっけな、とひとりごちるほどに。

「…言っとくが土産は出ねぇぞ」

「…あはは、」

ひとりごとは聞こえたらしい。
西條は訝しげな顔をして、釘を刺した。
祐樹はその釘から逃げるように、苦笑をしてそそくさと台車を押して店内に行く。
ガラガラ、と無機質な音が静かな倉庫内にやけに響いた。



祐樹が行って、何分か経ち。
西條は誰も居ないことを確認すると、思い切りため息を吐いた。
髪をぐしゃぐしゃに掻いて、その場に踵を付け地面にしゃがみこんだ。


(あー…ちくしょう、)


鼓動がやかましい。
祐樹と話して、だとか近づいてだとかそんな青春乙女な状態で脈拍が上がったわけではない。ましてや今も、正常に心臓は脈を打つ。

違っていたのは、
祐樹を抱きしめたときだった。

まだ手の内に残る感触。
西條は何となくその手を握ったり開いたりしながら、ぼんやりと思い出していた。

女のように柔らかい訳ではない。だが、男のように硬くごつごつもしていない。
中途半端な感覚。
でも、体温がとても暖かくて、細くて、抱きしめたら壊れるんじゃないかと彼は思った。

ふわりと祐樹の匂い、夏のような冬のようなさっぱりとしていて花のようにほんの少し甘い(菓子ばっかり食ってるからだろう)匂いが鼻腔をつき、ふわふわとしたねこっ毛の髪が顎を掠めた。


ぎゅう、と力を入れればおろおろと揺れる腕。
怯えるような声を出す割には抵抗が一切見られない。



癒しではなかった、西條にとって。
その一連の動きは。




(落ち着かねぇんだよ、あいつを抱きしめると)




ひどく鼓動がうるさくなって、壊したくなる。
けども、ひどく手の内のものを大事にしたくなるような衝動に襲われたかと思えば、今すぐに突き放してその場に押し倒したくなるのだ。
でもそれをすれば激しく後悔する、そんなことは異常であると分かっている。


もう一度ため息を吐いて、西條はゆっくりと立ち上がりまた在庫のチェックを始めた。
ぼんやりとまた、先ほどの会話を思い出す。


(アイツは俺が移動しても土産のことぐれぇしか考えねぇのか)


かまをかけたつもりだった。
もし、「そんな行かないで」みたいな目をすれば「冗談だ寂しいのか」とからかってやるつもりだったから。
しかし、ふと気づく。



俺は、あいつをどうしたいんだ?


ひとつ思い浮かぶ、自分の世界。
ひとりになってしまった世界に、自分は祐樹を連れ去ってきてしまいたいのではないか。


ぞっと寒気が走った。






「西條さーん、カラーボックスありますかぁ?」


直後に、聞きたくもない王子様ボイスが聞こえてより一層ぞっとしたのは言うまでもない。


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