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静か過ぎる図書館に読書をする生徒は今の時期1人も居ない。
皆勉強に勤しみ、期末で少しでも高い点を取れるよう必死にペンを滑らせた。

祐樹と雄太もその中の1人。
一番時間がかかる英語を終わらせたので、2人はすぐ終わるであろう現代文に取り掛かる。

ふと、2時間過ぎた頃祐樹が口を開いた。

「…そういや期末終わったら文化祭か」

「あ、だな。忙しくなるぜー」

進学校であろうとしっかり行事ごとは存在する。
ささやかな楽しみに、青春真っ只中な彼らは嬉しくて仕方ない。

一旦その話題は、図書館の静けさに怖気づいて終わらせ、閉館時間と共にもう一度切り出した。

「俺らのクラス何やんだろな」

「んー…俺は喫茶店かお化け屋敷がいいな」

「ありきたりじゃねぇか?」

「いいじゃンか」

放課後、というよりはもう外は真っ暗。
月明かりだけがアスファルトを照らす中、2人は駅まで文化祭について適当に喋る。

しかし、祐樹はあまり乗り気ではない。
別にこのクラスが嫌いだとか、学校行事がかったるいとかではない。ただ、

「…雄太さぁ、俺バイトしてるのわかるよな」

「ああ、お前いっつも西條さんのことばっか喋るよな」

「別に喋ってねぇし!」

焦ってそう切り返せば、長年一緒にいる雄太の方が上手で「はいはい」と適当に返されてしまった。

(まるで好きみてぇじゃん)

そう思うと、同時に脳にリフレインする「キライ」の言霊。
ぱぱ、と首をふってそれを忘れた。

そのまま隣を歩く雄太の眼鏡越しの瞳を見つめる。
若干垂れ目のその瞳は不思議そうに見返した。
雄太の瞳に映る祐樹は、困ったように眉尻を下げている。

なんとなく察すが、どうしようもないことだなと硬い黒髪をぐしゃぐしゃと掻いた。

「…だいじょうぶだって、多分」

「いやいや…うちのクラスの女子って結構…怖いじゃんかよ」

「お前には何も言えないって 怖くて」

「だから彼女ができねー!」

何時の間にか話が逸れたが、バイトだから文化祭の準備にあまり参加できず反感を買うんじゃないかという脅えを彼は持っていただけである。

確かに、彼らのクラスの女子は少々好奇心旺盛で負けず嫌い。
だからこそ成績が良いのだが、祐樹はそこが怖かった。
女子一同に非難される怖さなど、男なら誰でも恐ろしいのだ。

想像するだけで肩をがっくりと落とす祐樹。
その線の細い体を見て、ぼんやりと雄太は「もっと食えばいいのに」と口の中で留めた。

ふと、

「…西條さんって顔はどんな感じ?」

雄太は思いつく。
するとなんなんだといわんばかりに祐樹は眉を顰め、ぶつくさと言いながら答えた。

「…まあ、かっこいいンじゃね…?」

「お前が言うなら相当か」

「なんだそれ」


本人に自覚は無いが、祐樹はどちらかと言えば一般の男子高校生に比べて少々ながら綺麗な容姿をしているのだ。
かと言って女顔というわけでも、目がくりくりとした美少年という訳ではない。
どちらかと言えばキレイ寄りのカワイイというまあ中途半端だが整っている顔。

自分の顔を鏡で見て多少は肥えているだろうと雄太は踏んで、言い切った。



「西條さん、誘えば」



祐樹の目の前が真っ暗になった。
わなわなと震え、同時に首を思い切り横に振る。

「ムリムリ!あの人俺のこと嫌いだし!
つか仕事だろ多分!まだ来月のシフト貰ってないからわっかんねーけど ぜってぇ来ないっつかイヤだ!」

「落ち着けって、イケメンだったらうちのクラスの女子喜ぶじゃん」


現に、2人のクラスの男子はイケメンが残念なことに皆無である。
せいぜいレベル的には祐樹が高い方なのだが、進学校の女子達には近寄りがたい、冷たくされそうというイメージしかもたれない。

そこで、

「つまり、西條さんを献上しろと」

「その通り!」

「…益々しばかれるっつの俺…」

脳内にまたもや「キライ」と目つきの悪い彼が蘇る。
ふと、女子に献上でひとつのルートが思い浮かぶ。
昔一度思ったが、どうせ仕事でしか会わないのでどうでもいいやと忘れたこと。

(あのひと、彼女いんのかな)


仕事をしているところしか見たことが無い。
彼女と過ごすなんて全く持って想像できなかった。
しかしあの容姿。
そして祐樹以外への態度。


「…彼女居たら…」


どうすんの、という声は確かに雄太には届いたが、バスの排気音で消された。



「一緒に来てもらえばいいじゃん」



薄っすらチクリと鳴る胸に不思議を覚えながら、祐樹は「そうだな」と呟く。
バスの排気音と共に、その声も 潰れた。


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