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「あー、もう、あの人マジで最悪だー」

「…また西條さんか」

昼飯の弁当を食べながら、祐樹の親友である鶴谷雄太は呆れた。
祐樹がアルバイトを始めてからというものの、尽きない愚痴。
西條という人がどういう人かは見たことが無いが、相当な意地悪なのだろう。
辞めればいいと雄太は何度も言うが、祐樹はどうもあのホームセンターが気に入ってしまったらしいのだ。
自宅から近いし、自給は少々お安いもレジ打ちと補充程度なので気楽らしい。

そう思われているのも知らず、祐樹は購買のパンを食べながらまた愚痴を始める。


「キライって俺も嫌いだっつーの!いっつもいつも殴りやがってよ…!うぜぇもう!」

「はいはい、話変わるけど今日はバイト休みか?」


これ以上愚痴られても仕方ないので素早く話題を切り替える。
単純な祐樹はまんまとその波に乗り、頷いた。

「じゃあ、期末近いし図書館寄ろうぜ」

雄太は手元に置いてあった生物の教科書をパラパラと捲る。付箋や蛍光ペンで彩られたそれは、明らかに勉強していますな証拠。
対する祐樹も手元にはしっかり単語帳と英文法のワーク。

「そうだな、」

へら、と笑ってみせる。
内心期末の前にバイトの休みを取ろうか悩みながら。



祐樹の通う高校は、県内でも有数の進学校。
周りは皆、ガリベンを絵に描いたような人々。
もちろんそういう容姿の人ばかりではなく、普通の高校生らしい生徒も多くいるが、祐樹は少し浮いていた。

とんだ不良、だとかちょっと変わった見た目とかではない。
現にピアスも開けていないし、髪も染めていない。
が、髪は長いとまではいかなくとも長め。
くせっ毛でふわふわしていて、少し不思議な髪型だ。

容姿はどちらかといえば爽やかな男子高校生らしい顔つきと、少し可愛らしい要素が混じっている。
少々つり目なので、あまり柔らかな印象は与えられないが。
しかも、祐樹は雄太以外にあまり笑顔を見せない。無愛想だ。


そして、

「…あとさ、祐樹」

「うん?」

「お前、ブレザー着たまま煙草吸ったろ」

「…ばれた?」



喫煙者である。



高校生は未成年なのに煙草を吸うとは何事だと当たり前のことを言うが、吸っている人はかなりの割合でいるんだと返される。
その掛け合いに疲れた雄太は、特に咎めもせず、ため息を思い切り吐いた。

「…親が吸ってますとか」

それに怖気づき、思わず言い訳を言えば、

「バレるだろ、それ」

と更に呆れさせてしまった。
申し訳なさに祐樹はそろそろ禁煙するから、と宛ての無い答えを返す。

ニコチン中毒のこの体が、欲さなくなる時は滅びるときだろ。

そう自分にも言い訳をして、祐樹はもう覚えた単語帳をしまい、まだ覚えきれていない文法書の付箋を引っ張り頭の中に英語を叩き込む。

少しだけ静かな教室に、差し込む光はどこか冷たかった。

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