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中條がさくさくと仕事を覚えるので、祐樹も焦らずレジのやり方を教えられた。
赤井も整理整頓が得意らしく、てきぱきと補充をこなしたらしい。
おかげで、普通新人が入れば手間どるはずなのにいつも通りに閉店を迎える。

祐樹は中條にゴミ捨て場と、灯油のメーターの記録法を教えながら若干浮かれていた。
久々に西條とまた話せるかもしれない、という期待のためである。
5日ぶりだろうか、シフトが被ったのは。
何を話そう、そろそろ夕飯に誘ってみようかな、とぐるぐる考えながら門を閉めた。

ふと、中條の手が祐樹の肩を掴んだ。

「岡崎先輩…肩薄いですね」

しかも本人が気にしていることをズバっと言ってしまった。
祐樹は一瞬青ざめたが、必死に持ち直し、

「お、俺、成長期だから!」

と言うが、またまたそんなと中條は笑う。
その笑い顔すらさまになっていて余計腹が立った祐樹は、

「中條くんさっきから俺のこと可愛いとか言ったり、やたら触ったり…そっちのケでもあるのか?」

彼を少し突き放すような言い方で軽く睨んだ。
が、その直後やっぱり申し訳ないと思い「なんて冗談」と笑う。
見上げた先の中條は、不思議な笑みを浮かべていた。


「はは、岡崎先輩はほンと面白い」


その笑みが、何故だか祐樹には怖くて仕方ない。
まるで、獣のようなそれでいて美しい紳士のような。
だがすぐに、ぱっといつもの王子様スマイルに戻り、祐樹はほっと胸を撫で下ろした。



「そういえば、西條さんってどんな人ですか?」

「え?西條さん?」

店内に戻る途中、中條が祐樹にわくわくとした表情で聞く。
一体何だろう、と思いつつも祐樹は西條について考えてみた。


いつも無表情のくせに営業スマイルだけはきらきらしてて、お客さんや他の従業員には優しいくせに俺には厳しい。
その上口も悪いし、意地悪。
でも、優しいひと。
たくさん辛いことがあったのに、俺のために父さんの所まで連れて行ってくれた。俺の作った弁当をうまそうに食べてくれて、一緒に話してくれて………


「ベーコンのアスパラ巻き…」

「はい?」

「あ、ううん!何でもねぇよ!あーと…うん…まぁ…意地悪だけど優しいよ?多分…」


そう言うと、中條は明るく笑って そうですかそれはそれはと独り言を呟く。
そして、さりげなく祐樹の手を引いて店内へと突き進んだ。
急な出来事に祐樹は目を丸くするばかり。自分より大きく白い手をただ凝視するしか出来なかった。
中條はるんるん気分で、事務室へと向かう。が、

「…おい、中條と岡崎。終わったのかお前ら」

相当不機嫌な声が彼らをせき止めた。
祐樹は肩を揺らして、顔を青ざめさせながら西條の方を向いた。
対して中條は特に気にしていないのか笑顔で、


「はい、終わりましたよね?岡崎先輩」

「あ、うん、終わりました」


祐樹に同意を求め頷かせた。
西條は中條と祐樹の手を見つめる。
複雑そうに眉間に皺を寄せて、タイムカードきっとけ とぶっきらぼうに告げた。
持っていたコピー用紙がぐしゃぐしゃに丸められ、薄汚れたゴミ箱に捨てられる。その動きを見て祐樹は今日は話せそうに無いな、と肩をすくめた。


予想通り、不機嫌丸出しの西條に誰も話しかける事が出来ず、赤井と祐樹は何でだろうねと怯えながら帰っていった。
ただ1人、中條を取り除いて。
不穏な夜空の下、王子様は口の端を上げる。
それはうっすら見え隠れする三日月に似ていた。

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