戸惑オ
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春休みも半ばごろになる。
短い休みなのであっという間なのは仕方が無いが、少し寂しく感じるこの頃。
祐樹は2日休みを貰っていたので、久々に出勤した。

最近、不思議と西條とシフトが被ってなかったので彼と会うのも久々である。
なぜか高鳴る鼓動に祐樹は「病気か?」と意味の分からない疑問を抱きつつ、事務室に入った。


「おはようございます、岡崎先輩」

「あ、おはようございます…」

直後、声をかけたのは先週から正式に採用された赤井。
意外にも根は良い子らしく、祐樹が無害だと知るときちんと後輩らしく礼儀正しく接している。
見た目はまだまだ改善されていないが。
だが、事務室は彼1人ではなかった。
もう1人、見かけない男子がエプロンを着ている。

「おい、お前も岡崎先輩に挨拶しろ!」

「ああ、ごめんごめん。エプロンなんて初めて付けるから…」

どうやら赤井の知り合いらしい。
祐樹はふと、自分が以前西條に「奈多高のが2人アルバイト申請しにきた」と聞いたことを思い出した。
ではそのもう1人の方か、と納得して挨拶をした。


振り向いて挨拶を仕返す男子。
だが、その姿を見て祐樹はぽかんと口を開けた。


「初めまして、中條徹です。初めてなので慣れないですがよろしくお願いします…岡崎先輩?」

中條が不思議に思って祐樹の顔を覗き込む。
より祐樹をぽかんとさせるだけなのに。

祐樹が固まるのも無理は無い。
なぜなら、中條は世間で言う「王子様系の美男子」だった。
きらきらと光る髪はハーフなのかクォーターなのか分からないが薄っすら金が混じっている。
更に顔は申し分なしに王子様。
西條も男前だが、彼もまた違ったタイプのイケメンで祐樹はため息を吐いた。
イケメン2人も居て、この店はどの客層を狙っているんだと。

「あ、あの?僕何かしましたか?」

するといつまでも反応の無い祐樹に不安になった中條は眉尻を下げる。
慌てて祐樹は「違うんだ」と両手を横に振った。

「な、中條くん凄くかっこいいからびっくりして…!」

「え?なんだそんなこと無いですよ。岡崎先輩のほうがとても可愛いですよ」

「はは…って、は!?」


にこにこと王子様スマイルでなんてことを言うんだ!と祐樹は内心パニックを起こす。もちろん、可愛いだなんて言われても1ミリも嬉しくは無いのだが。
しかし、これは女の子をイチコロにするだろうなと思って赤井に生暖かい視線を送った。

それを受け取った赤井は、複雑な顔をして視線を背ける。
そして中條に聞こえないようにこっそり祐樹に耳打ちをしようと顔を近づけた、が。


「おい、お前らさっさと入れよ」

不機嫌そうな西條の声でそれは止められた。
久しぶりに聞いた声に、思わず祐樹は反応して振り返る。おかげで、祐樹は気づかなかった。
中條の目が煌いているのに。

1人、一瞬で全てを把握した赤井は大きくため息を吐いた。
ひよりと一分一秒でも一緒に居たくてバイトを始めたが、おそらくなるであろう自分の立場に。




「とりあえず、俺と赤井は補充してくるからお前は中條にレジ教えておけ」

そう言われ、祐樹は中條と2人狭いレジの空間に居た。
運が良いことに、今日はあまりお客が来ていないのでゆっくりと教えることが出来る。
ましてや、王子様ルックスの中條が接客をするだけで買い物に来た奥様方は皆上機嫌。
そのうえ、中條は物覚えがいいのかするするとレジの扱い方を覚えていった。

またしても完璧な美形が増えたことに、祐樹は内心コンプレックスを覚える。
最初、入ったばかりの頃の自分はひたすら機械に慣れなくて、西條によく怒られたものだと。

今は大分慣れてきたけど!と心の中で威勢を張る。

「岡崎先輩、レシートが切れたんですけど…」

「あ!えと、そこの引き出しに入ってるから…!」

いきなり中條に声をかけられ、祐樹は挙動不審になりながらもレシートの替えを持ってきた。
ありがとうございます、とまたもや王子様スマイル。
ああ、同じ人間なのか?と祐樹は苦笑しながらどういたしましてと返事をする。




一方、倉庫で補充用の商品を説明する西條。

「ここにトイレットペーパーがまとめてあるから。バイトは基本この辺を補充してくれ」

「はい、ここがトイレットペーパー…っと」

当初は敵意剥き出しだった赤井だったが、今となっては素直に言うことを聞く。
…仕事中だけだが。

「じゃあ後はいつも通りよろしく、休憩は7時からな」

あまり関わりたくないのか、西條はそう言ってさっさと自分の役割に付こうと背を向けた。
しかし、赤井は次いで言葉を出す。

「あのー…西條さん、気をつけてくださいね」

「え?お前俺の心配してンの?…きもちわりぃな…」

「俺の態度はどうでもいいだろが!つーか失礼すぎるだろ!そうじゃなくて、中條に気をつけてくださいね」

「は?あんな王子様も不良なのか?」


西條は一目見たら忘れられないであろう、無駄に煌びやかな男を思い出す。
まさか彼もひより同様に見た目と裏腹なのだろうか、と思うと寒気がした。
が、赤井は頭を横に振った。

「…まぁ、岡崎先輩のほうが危ないかもしれませんが」

「は…?何だそれ…」

祐樹の名前が出て、内心不穏が過ぎる西條。
理由を聞こうとしたが、店内に鳴り響くレジ応援の声に駆けつけるはめになり、聞けなかった。

王子様スマイルを聞きつけた奥様方が一気に増えたらしい。
大変だな、と赤井は他人事のようにあしらいながら補充をするためてきぱきと台車に積んでいく。


これから起こることに合掌しながら。

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