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春の空は、どこまでも淡く透き通る。
桜の花びらがひらり、ひらりと舞い踊り、水溜りのようにアスファルトの窪みに溜まってゆく。

それをまた春風が舞い上げ、遠くへと遠くへと飛ばしていった。

ぼんやりとその様子を見る雄太。
遠くへ行ってしまう、と関連付けて考えるは何年も思い続けている幼馴染のこと。
昨日、卒業してしまった彼のことだ。

ため息を吐く。
もう何度目か分からないな、と思った矢先。


「3回目だぞ、ため息。ていうかさ、わたにぃ行くのいつだっけ?」

祐樹がやれやれと言った様な顔をして、話しかけてきた。
雄太はその姿をじっと見つめる。
穴の開くほどに見られ、尚且つ質問には答えない雄太に、祐樹は不思議に思って首を傾げた。
直後、雄太はがばりと祐樹に抱きつく。

「うわ!なに!?」

「癒し…!」

ふわふわと柔らかい髪からはシャンプーの香り。
すっぽり収まる細い体型に、いい形の腰。
そのうえ体からは女性特有の香りでもなく、男臭くも無く柔らかい香りが鼻をくすぐる。
何だってこの幼馴染は癒されるのだろう。
まるでペットのようだ、と雄太は思いながら荒んだ心を癒していった。

が、本人は不服。

じたじたと四肢を暴れさせてひたすら「離れろ」と訴える。
仕方なく雄太は体を離せば、目下の彼はそれこそ不機嫌そうに、

「だっから!見送りに行くだろ?わたにぃの!」

「あ…まぁ、当たり前だがな」

「俺も行きたいから、教えろよ」

最近、祐樹が航を「わたにぃ」と呼ぶことが増えてきた。一時期、頼ってはいけないと封じていた愛称。
なんだかそれが嬉しくて、雄太はにこにこと微笑みながら、

「1週間後」

そう伝える。

いつの間にか、航が卒業してしまったという憂鬱な事実が消し飛び、見送りの日が楽しみになってくる。
なんだか救われた気がするなぁ、と思いながら雄太はまた癒しを手に入れようと祐樹に手を伸ばした。
が、

「…俺をぬいぐるみみたいにするのはヤメロ」

「バレたか」

あっさりとバレてしまい、少し距離を置かれて歩かれてしまった。
バス発車まで時間が無いんだぞ!とちょくちょく怒られながら、彼らは春の道を歩く。




隣で、今日のクラスの出来事を話す雄太の声を聞きながら、祐樹はぼんやりと航のことを考えていた。

本当は聞こえていた、彼の切望。


『雄太には、幸せになってほしいんだよ』


悲しそうに遠くを見ていた彼。
祐樹は目を細め、眉をしかめて思う。


(…自分は、どうなんだよ)

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