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ひよりは、帰ってから未だ眠れないで居た。
時刻はとっくに0時を過ぎ、真夜中。
それなのに眠れないのは、まだ納得のいかない心。

何度も何度もため息を吐いて、ベッドで1人ごろごろと寝転がっていた。

考えるは、やっぱり西條と祐樹のことばかり。
自分の疑っていたことを西條は否定し、祐樹は肯定していないが、やっぱりざわめく勘はまったく否定しないのだ。

また、涙腺が熱くなる。
ふられたことに泣きそうになるんじゃない、まだバカみたいに残っているちっぽけなプライドと考えたことも無い出来事に混乱しているから。
喉の下が、ぎりぎりと心臓を締め付ける。


ひよりが目の端を拭ったそのとき。
ベランダ側の窓から、コンコンと2回ノックが響いた。


驚いて飛び起き、恐る恐るカーテンを開けばそこには見知った顔。


「…こうちゃん、何してるの…」

赤井が少し眠そうな顔をして、ベランダに立っていた。



赤井とひよりの家は隣同士。
尚且つ、お互いのベランダから行き来できるほど距離は近い。
だからこそ、昔はよく行き来して遊んでいたのだが。
成長してからこうして訪れるのは、初めてである。

ひよりは少し怪訝な顔をするも、1人でいることが耐えられず思わずその窓を、開けた。


「…なに、」

「聞きたいンだけどさ」

「メールすればいいじゃん」

「部屋に灯りついてたから」

珍しく淡々と会話が続く。
最近はもっぱら、ひよりが赤井に構わなかったので会話らしい会話をしなかったのだ。
なんだか久しぶりだ、とひよりは思いながらため息を吐いて、用件を促す。

赤井は眠そうに目を擦りながら、

「今日、送別会だったんだろ?ってことはサ、ホームセンターのバイト1人空き出来たんだよな?」

と、問うた。
ひよりは何故そんな事を聞くのだろうか、と不思議に思いながらも「そうだね」と同意する。
すると、赤井はあくびをひとつして、


「じゃあ、俺バイトする」


なんて、言ったのだった。


ひよりは目をぱちくりさせて、「はぁ?」と聞き返す。が、彼の決意は固いようで、ひよりの様子も見れるし稼げるし一石二鳥!だなんてガッツポーズを決めていた。
そんなことは、困る。
ただでさえ、明日からバイトに少し行きにくいというのに益々重荷が増えるなど。ひよりは必死に、

「無理無理!あんた、ほら、体力そんな無いでしょ?あれはね、コンクリ袋とか持たなきゃいけないんだからね!」

「あの、岡崎って先輩もやってンだろ?あの人ガリガリじゃん」

「岡崎先輩はガリガリじゃない!…筋肉は無いけど」

「じゃあ俺のが体力あるよ、とりあえず明日電話すっから」

それだけ、おやすみ。
そう言って赤井は手を振りベランダへと戻っていった。が、しかしそれはやんわりと止められる。
引っ張られる裾に赤井が振り向けば、泣きそうな顔をして俯くひよりが、いた。


いままで、赤井の中に居たひよりが居ない。
いつもカラカラ笑って、時には憤慨して怒って。
それでも誰かを守ろうとしている強いひよりは、居なかった。


「…今日、床に布団しいてあげるから、泊まって」

なんて、弱音を吐くほどに。
赤井はその願いを聞きたくなるが、自分の中の本能が怖くて、思わず怖気づく。

「いや、でも…ひよりは俺のこと嫌いだろ」

「…嫌いじゃないから床に寝せる」

なんだそれ、と思うが嫌われては無いことに浮かれてしまう自分を憎らしく赤井は思った。
でも、それと同時に思うこと。
今ここで、ひよりが寄りかかれるのは自分しかいないのではないか、と。

赤井は、やんわりとひよりの手を解きながら

「…わかった」

了承した。




その後、不思議とひよりは先ほどの眠れなさが嘘かのように睡眠へと堕ちた。
誰かが、ましてやきっと信頼できる人が傍に居るだけで。
彼女は少しだけ、心を晴らすことが出来た。




だが翌日、彼女は一晩ぐっすり寝て決意したことを赤井に告げる。


「久々に暴れてこようかと思う」

赤井は青ざめながら必死に、

「ひより!お前もうすぐ進級するんだぞ…!」

止めたが彼女は聞かず。
浅見より少しばかり離れた場所で、生傷と負傷者を出しまくったとか、無いとか。



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