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一方、時は遡り。
航が祐樹を公園に連れ出したと同時刻。
西條はゆっくりとひよりから体を離した。
そして、
無言で祐樹と航の行く方向を見つめる。
その様子を間近で見たひよりは、ますます涙をぼろぼろと流してしまった。
もう、彼女の中では西條が祐樹を好いているとしか思えなかった。
まだ恋愛や人の情に関してよく分からないひより。
自分の感情とその行き先が分からなくて、ますます頭を抱える。
「…東條、話せるか」
そんな中、優しい声が降る。
やわやわとひよりの頭を撫で、まるで子どもをあやすかのよう。
ひよりはようやく嗚咽を止め、ゆっくりと息を落ち着かせていった。
「岡崎が何かしたか?」
優しい、彼はとても。
ひよりはそう確かに確信した。
そして、届かないのだということも。
ひよりは嗚咽を飲み込み、心配そうに見つめる西條を見上げながら、言葉を紡ぎ始めた。
「岡崎先輩は、なにも、悪くないです」
項垂れ、スカートの裾をぎゅっと掴む。
それはまるで縋っているかのようで。
西條は支えたくなる。ただ、それは愛という対象のベクトルではない。
伸びそうになる手を西條は下ろし、ひよりのか細い声に耳を傾けた。
ひよりの嗚咽が、また戻る。
それでも彼女は必死に伝え始めた。
「ただ、ただ…西條さんが、私、西條さんが好きなんです。だから、だから…!西條さんが、岡崎先輩のこと好きだから…岡崎先輩にひどいことっ…」
その言葉は、西條の手のひらで塞がれた。
目を丸くして驚くひよりに、西條はゆっくりと話し始めた。すこしだけの罪悪感と共に。
「…俺が、岡崎のこと好きだなんて誰が言ったんだよ?アホ」
お前は突っ走りすぎなんだよ、なにもかも。
ため息と共に吐き出す言葉。少しは周りも見てみろ、と諭す。
そして、
「だけど、お前の気持ちには答えられない」
ごめんな。
そう、告げた。
不思議と、ひよりの心は地面に叩きつけられなかった。ただ、ひたすら泣きたい衝動と、何か鎖から解き放たれたような開放感だけが彼女に響く。
やっと離された手のひら。そして、開放された唇でひよりは、もう一度告げた。
「…ありがとう、ございます」
答えてくれて、ありがとう と。
心配した店長と宮崎。そして公園からやっと戻ってきた航と祐樹が到着する。
せっかくの送別会を台無しにしてごめんなさい、とひよりはひたすら航に謝った。
しかし航は、もうすぐお開きも近かったからと彼女を宥めるように許す。
やはり大人だなあ、と祐樹はぼんやりと思った。
ふと、祐樹は西條を見やる。
また以前のようにどこか遠くをぼんやりと見つめていた。
その視線の先は、わからいけども。
なんとなく祐樹は過去のあの人のことだと確信できた。
その後、今度は祐樹にひよりがひたすら謝り倒したのは言うまでも無い。