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「いやーよかったねぇ見つかって」
飼い主を電話で呼び、無事帰宅した後、店内に居た4人は一息を吐いていた。
店長が嬉しそうにそう何度も言いながらコーヒーを啜っていると、航が頷きながら、
「岡崎くんのおびき出し作戦が通じるとは…それにまさかこの2人が仲良くするとは思いませんでしたよ!」
店長もそれに激しく同意する。
一方張本人の片方はまたふわふわに伸びた髪を弄りながら、店長に奢ってもらったコーヒーを啜った。
「…そんな普段凄ぇ仲悪いみたいな…」
「実際そうでしょ」
そう言われると返答する術が無い。
言葉を濁しながらまたコーヒーを啜る。
ふと、この場に居ない西條の姿を探した。
どうやら閉店準備をしているらしい。どこまでも仕事が出来る男だ。
けれど何だかそれを純粋に尊敬できない祐樹。
あの意地悪で自分を叩く西條を、尊敬なんてしたくないのだ。
けれど、ちょっとだけ気になる。
店長と航が談笑している中、祐樹は何となく西條が気がかりで仕方ない。
ちらちらと事務室と店内を結ぶドアを見やる。
どうやらまだ終わらないらしい。
「…俺、自動ドアの鍵閉めてきますね」
「ああ、悪いね、ありがとう」
祐樹は実力行使に出て、建前を告げつつ西條の元へ向かった。
清算を終え、報告書を書いている西條。
硬めの深い茶髪を時たま弄りながら書き進め、ファイルに閉じた。
パチン、という音が静かな店内に響いた直後。
「…西條さん」
「お、どうした」
彼の斜め後ろに祐樹。
少し嬉しそうにはにかみながら、店長が買った西條の分のコーヒーを渡す。
すると西條は嬉しそうに歯を見せて笑いながらそれを受け取った。
プルタブを開け、ぬるまったそれを一気に飲む。
喉に落ちる苦味を味わいながらほっと息を吐いた。
「…何じろじろ見てンだ」
ふと、自分を貫くような視線に気付く。
吊り目がちだが形の良いアーモンド形の目が、くりくりと西條を見つめているのだ。
時折、ふわふわな長めの髪が揺れる。
「惚れたか」
「は…!?西條さんきもちわりっ!」
「冗談だっつのこのボケ!」
そう言ってまた西條は軽く祐樹の額を叩いた。
いてぇといつものように騒ぎ、額を押さえる祐樹を見て、西條はカラカラと笑う。
その笑顔は、普段 客や他の従業員に向けての笑顔ではなく、心底可笑しそうな表情。
「お前、ほンと面白いよな」
「…なにがっすかー」
「バカなとこ」
「キライじゃないんスか?」
いつも、ミスをすると他のアルバイトより数倍怒るのだ。
祐樹は小さなことでもミスしてしまう自分が嫌いである。
何で要領良く出来ないのだろう、と眉間に皺を寄せて思った。
心の中がもやもや煙たいものが広がる。
振り切るようにして、祐樹は早足で自動ドアへと向かった。
小さい店とは言えども2つ付いているので、片方を閉め片方を帰りの出口にしているのだ。
裏口から出ることもあるが、アルバイトは大体自動ドアから出る。
因みに自動ドアの電源は切るので、ちょっと重たい引き戸状態。
ガチャリと普通の鍵を閉める感覚で捻る。
いつまでも返事をしない西條に不思議を覚えるも、どうでもいいかなと祐樹は立ち上がり振り向いた。
目の前に広がるは、目つきの悪い男前の顔。
見慣れているはずなのに、ひどく誰だかわからない。
ごつん、と額をぶつけられる。
痛みが走るより吐息がかかるほうに驚愕して声が出なかった。
だが相手は声を出す。
先ほどみたいにバカにした声色で。
「キライだよ」