桜舞い散る
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桜は4月咲き誇ると云うが、この地域の桜は他より一足先に咲き誇る。
ちょうど3月のはじめ、それは綺麗に春を彩らせるのだ。
ちょうど、卒業式と同時に。
おかげで、スピーチをする方々は皆「桜の蕾も」ではなく「桜も徐々に咲き始め」と云うほどに。
その桜が、今蕾を付け始めていた。
「…卒業式か」
卒業式が過ぎれば、春休みなどあっという間に過ぎ、4月になれば本格的に受験勉強が開始される。
少し憂鬱だが、新しい季節というものはどこかわくわくするもの。
祐樹は、春になったら団子でも食べたいな、と。花より団子の代名詞であるかのようなことをぼんやりと考えていた。
そんな中、どんよりと冬から抜け出せない男が、1人。
「…おーい」
応答しない彼の頭を、祐樹は軽く小突く。
だが、それでも返事は無し。
「雄太、…落ち込むなって」
「…落ち込んでないよ」
「うそつけよ…」
わざわざ眼鏡を外してまで、机に突っ伏す雄太。
春の日差しはきらきらと暖かく光っているのに、対照的な雰囲気をどんよりと渦巻かせていた。
その理由は言うまでもなく。
祐樹は何かフォローをいれようとするが、どうしようもない。なぜなら、
「…同じ大学行くンだからあと1年」
「1年の間に彼女やら彼氏やら作ったらどうする」
と、間髪入れずにネガティブ意見が飛び出してくるのだ。気持ちは分からなくも無いが、あまりにも考えすぎなのではないか、と祐樹は思う。
昔からこの幼馴染はどうも、気にかけすぎ。
祐樹は目の前の黒髪を、思い切りわしゃりと掴んで見せた。
急な衝撃に、俯いていた顔が思い切り上がる。
細い目をぱちくりと丸くして、雄太は祐樹をまじまじと見つめた。
その目を見返して、祐樹は口を尖らす。
「もっと話して来いよ」
そう言って、軽く雄太の額を小突く。
いつまでもうじうじされては堪らないのだ。
「俺だって、西條さんと色々話したらちょっとは仲良くなれたし」
な!と元気付けるように呼びかける。
軽く肩を叩けば、少し気分が上がったのか雄太は薄っすら笑って見せた。
そうだな、と言いながら、が直後。
「…つーか、お前…へぇ…そうか、やっぱりそうだと思ったけどな」
にたにたと笑いながら、眼鏡の奥の瞳を輝かせる。
それはまるで、何かに感づいたかのよう。
しかしその理由が祐樹にはまるでわからず、なんなんだよ!と問い詰めるが、雄太は、
「別に?」
と、かわす。
「何だよ!気になる!」
「いや?祐樹が最近西條さんの話ばっかするなぁーと思っただけですが?さてさて勉強しますかー」
「はっ、!?」
どっと体中の血液が顔に集まる。
振り返れば、確かに自分は西條の話ばかりしていた、と祐樹は気づいた。
そんな自分に、羞恥と後悔が襲い掛かる。
先ほどまでとうって変わり、しれっと英単語帳を見る雄太に、祐樹は軽い怒りを感じた。
そんな春の日の午後。
卒業式まで、あと5日。