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祐樹と西條の昼休憩はちょうど交代である。
1時間が過ぎ、次は自分の昼休憩だなと確認して祐樹は少し緊張しながら事務室へと入っていった。

「お、交代か」

事務室に入ると、西條が書類に目を通しながら祐樹に話しかける。
祐樹が「はい」と答え、自分の食事を取ろうとロッカーの前に座り込んだ。
それを狙ったのか、いいタイミングで祐樹のつむじが硬いもので軽く叩かれる。
地味な痛みに、「いたっ!」と悲鳴を上げれば、頭上から声が降ってきた。

「…美味かったぞ」

「へ、?」

信じられない言葉に、思わず首が痛くなるほど見上げれば西條が空の弁当箱を差し出していた。
祐樹はぽかんとしながらも受け取る。薄っすら食器潜在の香りがするので、事務室にある洗い場で洗ってくれたのだろう。律儀な男だ。

「次はベーコンのアスパラ巻き入れとけ」

俺、あれが好きなんだよな。と付け加えて西條は鼻歌を歌いながら店内へ行ってしまった。

祐樹はぼんやりと確かにあれは美味しいよなあ、作れるかなあと考える。が、直後。



(ええええ!?次!?次も作れってことかよ!)


ありえない事実に悶絶した。
洗い場を見る限り生ゴミは無いので完食。
そのうえ洗って返し、次も要求。
男女仲ならば脈アリの可能性が高い状態に、祐樹の鼓動はばくばくと鳴り始めた。


(…西條さん、笑ってた)


思い出した、弁当箱を返した時の西條の顔。
けらけらと意地悪に笑う表情でなく、ただ嬉しそうに笑った顔。

思わず、祐樹の頬が緩む。
へにゃへにゃと締まりの無くなる顔に、自分でも嫌になるが、止められなかった。


西條が嬉しいなら、嬉しい。
純粋にそう思えた。


(家に呼ぶのいつにしよう)

祖父母がいつも歓迎している、と言えば来てくれるだろうか、なんて考えながら祐樹は自分の分の弁当(失敗作を詰めこんだもの)を食べ始める。
焦げて苦いが、そんなことはどうでもよくなるほど、頭の中は西條の笑顔でいっぱいだった。


普通、この時点で気づくはずの心に、祐樹は気づいていない。
今まで、そんなことを考えたことも無かったから。


だが、彼より先に気づいたある人物が、事務室のドアから幸せそうな祐樹をじっと見ていた。



くりくりと小動物のような大きな瞳を光らせ、形の整った眉毛を訝しげに歪ませている。
彼女、いや、ひよりは先ほど嬉しそうに出てきた西條と、今現在嬉しそうな祐樹を交互に見やった。
そして、先ほど聞いてしまった話し声に照合させる。




(…男の人同士で、お弁当であんなに喜ばないよね)



ひよりは、ため息を吐きながら天井を見上げた。




気づき始めた彼女に、気づかない西條と祐樹は今日一番の上機嫌で仕事に励んだ。
そんな晴れやかな午後の日。

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