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ふわふわ、と緩やかに流れる風。
軽く開けた窓から入るそれに目を閉じる。
色々あったなあ、とまるで遠い過去のように祐樹はこの2日間を振り返った。
西條が風邪で倒れて、自宅で介抱して。
翌日バイト先で行けば、今度は自分が介抱されて。
そして、父との再会。
あまりにも展開が速すぎて、最近のことが遠い過去のように祐樹は感じてしまうのだ。
(…青空、)
綺麗だ、と思えた。
窓の外から見える朝の空は、薄い青色。
雲も無く、ただ広く広く染み渡る。
思わず手を伸ばせば、柔らかな冷たい風がひやりと手のひらを冷やした。
明日は雪が降るだろうか。そう、祐樹は感じながらちらりと目を流す。
未だ、心地よく眠っている西條。
目の下には隈が出来、長時間の苦痛を物語る。
ずきり、と音を立てて祐樹の心が痛みで染みた。
どうして自分のために、こんなに頑張ってくれるのだろうか。
何だかとても嬉しいと思えるのに、胸がしくしくと痛んだ。
祐樹は音を立てずに彼に近づき、恐る恐る西條の髪に触れた。
さくさくとしているようで、意外に柔らかい髪。
思わずへにゃりと笑って、その髪を適当に弄ぶ。
しばらくその髪を弄っていると、他のところも弄りたくなるのか、祐樹の手は伸びる。
起こさないようにそろりそろりと瞼に触れた。
眼球の硬さに驚きながら、意外と長い睫をなぞる。
そのままゆっくりと鼻先に触れ、唇に触れた。
薄くて少しカサついている。
でも、やわらかい。
なんとなく押したりして遊ぶ。
だがこれ以上やって起きるとまずいので、祐樹は名残惜しそうにその手を離した。
そして、何も考えないその手は、
自分の唇に触れる。
ふと、自分の行動に祐樹は
(ひぃいぃ!俺、なにしてんの!?)
動揺しまくり、顔をタコよりも真っ赤にさせた。
まるで間接キスを自らの指でしたかのようだったからである。
自分の意味不明な行動に動揺した祐樹は、小さい声で呻きながら横に倒れた。
頬にあたる冷たい畳が心地よい。
その心地よさに思わず目を閉じれば、先ほどの熱がゆっくりと冷えていった。
瞼を上げれば、すぐそこに西條がいる。
不思議な感覚に未だ慣れない。
けれども、その感覚が更に不思議なことに苦痛ではなかった。
ただ、
「…西條さん」
ぽつり、と呟く。
聞こえるわけが無いのに。
それでも、ふにゃりと若干口を動かした西條が反応したのかと思って嬉しくなる。
も、一度祐樹は声を小さく出した。
「西條さん」
呼べば呼ぶほど、幸せになる気がしたから。