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いくら愛していると伝えても、結婚できない苦しみ。
それから逃れるようにして辿り着いた地。
そこで作り上げた家庭は、確かに幸せの塊だった。
誰よりも、何よりも家族を愛していた。
今も、確かに愛していると。

しかし、ある日一瞬にして父は家族を支える力が無くなったのだった。


当時、父の会社が倒産し、駆け落ちの際に作った借金が膨れ上がった。
そのうえ性質の悪い金融会社だったがために、このままでは家族諸共崩壊してしまうと。
そう察したのだ。

父は、震える声で告げる。

だから俺は逃げた。
病気の祐美と幼い祐樹を置いて。
出稼ぎに出たつもりでいたんだ。
それを軽く見て、お前たちを苦しませたのは俺の罪だ。




祐美こと、祐樹の母が万引きと傷害で捕まったと知ったのはその1年後のこと。
急いでこの家に駆けつけたときには、もう空き部屋だったらしい。
祐樹が母の実家に引き取られたことは知ったが、顔向け出来る訳も無く、時だけが経過した。
けれど、いつか戻ってくることを信じ、細々と借金を返しながらこの部屋で生活している。



全てを告げた後、父はまた何度も謝った。
その姿にか、事実にか、祐樹はまた嗚咽を漏らした。

ひどく悲しかったのだ、彼は。
誰も悪くない、その事実に。

嗚咽で告げられない代わりに、祐樹は何度も何度も頷く。
分かった、と。
もう大丈夫だ、と。


柔らかい朝日が差し込む一角で
12年間離れていた父子が、その明るい朝日をようやく浴びることが出来た。







やっと祐樹の嗚咽と、父の涙が止まった頃。
ふと、祐樹の父がずっとドアを支えて自分たちを見つめていた西條に気づく。

祐樹にばかり気を取られていたので、まじまじと姿かたちを見つめた。
その仕草が祐樹に似ていて、思わず西條は頬を緩ませる。

「あ、すみません…」

笑ったことに思わず謝れば、祐樹の父は思い出したように目を丸くさせ、

「そ、そういえば祐樹をここまで連れてきたンだ…君は誰だい?」

慌てて問えば、祐樹も同じように慌て説明しようと戸惑う。
しかし嗚咽が止んでもなかなか声が出ず、わたわたとするだけ。
そんな2人を察し、


「祐樹君がアルバイトとして勤めているホームセンターの社員、西條です」


うわ、祐樹君とか呼ばれちゃったよ!
と、祐樹がむず痒さに顔を歪める。
名前など一度も呼ばれたことが無いのだ。恥ずかしくて仕方が無い。
そんな祐樹をよそに、父は明るく笑って、


「祐樹がお世話になってます、お仕事先の社員さんなのに…ここまで車で来たんですか?」

「はい、まぁ」


確かに西條と祐樹の接点など社員とバイト。
それ以上も以下も無い。
そいつがわざわざ他人の家庭事情に首を突っ込むような形で、無理やり合わせたなど。
申し訳なさに、思わず西條は頭を下げ、


「…お宅の事情に踏み入れてすみません、」

俺みたいな第三者より遠いやつが、と言った途中でやっと出た祐樹の声がそれを打ち消す。

「そ、そんなことねぇよ…」

ぎゅ、と西條の裾を握り締めながら。
そう必死に訴える祐樹の声に、西條の中で蹲っていた罪悪感がスッと消えた。

その2人の様子に、祐樹の父はほっと胸を撫で下ろし、やっと柔らかく笑みを浮かべる。


「そういえば、浅見からここは大分遠いですが…何時に出たんですか?」

そう父が聞けば、西條より先に祐樹が口を開く。
青ざめながら。

「…西條さん、もしかしてぶっ通しで運転してきた…!?」

「…まあ、そういうことだ…」

自覚した瞬間、睡魔にぐらりと揺れる体。
この数日で体を酷使した結果がそろそろ現れるかと言うかのように。
その事実に、祐樹も祐樹の父も慌てふためいて、

「家で寝ていってください!」

「仕事は休んだほうがいいっスよ!」

2人とも同じようなことを言って、ふらつく西條を急いで部屋の中に誘導し、布団の中へと寝せた。

仕事で出て行った祐樹の父を見送り、やっぱり父子だなと思いながら枕元で座る祐樹を見上げる。
俺、ホームセンターに電話してきますねと言った祐樹の声を聞いたことを最後に、西條は睡魔に負けた。


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