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薄っすらだが記憶がある。
細い目、高めの鼻、少し癖のある髪。
その癖は、祐樹とよく似ていた。
記憶よりも大分老けてしまっているが、確かに目の前の男性は、


「…父さん?」


幼い祐樹と病気がちの母を残して、蒸発してしまった彼の父であった。
なぜ、今戻ってきて尚且つそこに住んでいるのか。
どうして自分たちを置いていったのか。
なんで出て行ってしまったのか。
彼に会いたくない、逃げ帰りたい。
祐樹の中に疑問と質問が入り混じり、ショート寸前になる。

そんな祐樹の姿かたちをじっと見つめる父。
自分のことを覚えてくれていたということに、震えが止まらないのかドアを支えていた手が震える。
それに気づいた西條が、そっとそのドアを代わりに支えた。

途端、父は壊れ物でも扱うかのように祐樹の肩を掴む。


「…おおきく、なったなぁ」


慈しむ目で祐樹を見つめる。
その目は、12年前と何も変わらなかった。
じわり、と祐樹の涙腺が緩み始める。
鼻の奥がツンと痛み、わなわなと唇が震えた。

これが安堵なのか、それとも喜びなのか、怒りなのかまるで分からない。
ただ、止め処なく流れる涙を拭うことすら

できなくて。


「祐樹、ごめんな…本当、ごめんな…」


何度も謝る父の瞳からも涙が溢れ出ていた。
その涙を見て、悲しみに似た衝動が祐樹に押し寄せる。
しゃくりあげる喉を何とか落ち着かせ、祐樹は震える手を父の手に伸ばし、ぎゅっと掴んだ。
もう、逃げたり怒りをぶつけたりする選択肢が無くなっていた。
祐樹は目を丸くする父の顔をじっと見つめ、唇を動かす。


「…どうして、いきなり出て行っちゃったンだよ…理由くらい、教えてくれよ…!」


震える声の切なさに、聞いているだけの西條はぎゅっと唇を噛み締めた。
どんな形であれ、親を失くす悲しみが嫌なほど分かるのだ。
締め付けられる胸を押さえながら、尚も父子をただ見つめる。


父は、そう祐樹に言われ、苦いものを噛んだかのように眉間にしわを寄せた。
唇を軽く噛みながら、言うか言わまいか考える。
無理もない、まだ祐樹は「子ども」なのだ。
いくら彼が理由を求める権利があろうとも。

その父を察してか、祐樹はまた言葉を紡ぐ。


「俺、…ずっと、怖かった。
父さんが、俺と母さんを嫌いになって捨てたンだって、思ってた。
そうだって決めて我慢してた。
…でも俺のこと見て、嫌いって顔してないじゃんか…」

祐樹がどうして、父親と会うことが怖かったのか。
昔のことを思い出して苦しむことが嫌だったから、というものもある。
会った瞬間、どうしていきなりいなくなったと掴みかかる自分がいるかもしれないというものものある。
でも、それ以上に怖かったのは。

父に嫌われて、冷たい視線を向けられるのではないかと思っていたからだ。
それは、父も同じだった。
だから会えるようになっても、会えなかったのだ。彼ら親子は。

祐樹は続けて言葉を紡ぐ。

「俺、父さんのこと、嫌いにならないから…」


教えて、


最後の言葉は、我慢出来ない嗚咽に掻き消された。
けれどしっかり届いたその叫びに、父はゆっくりと、何度も何度も頷く。
そして、ゆっくりと真実を伝え始めた。


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