13,
----------


「落ち着くまで寝てろ」

まだ顔色の優れない祐樹を抱え、西條は自分の車の後部座席に彼を寝かせた。
セダンなので伸び伸びと眠れないが仕方ない。
祐樹は力無く頷いて、シートに縋る様に丸まった。

暖房がつくまで少しかかる、とだけ忠告し、西條はまだ閉店作業が残っている店内へと戻っていった。

祐樹1人だけの空間に、なる。
緩くかけたラジオの音量が心地よい大きさで、尚且つ暖房が適温に達してゆく。
その心地よさに、祐樹はまぶたを下ろした。



(おまえのお母さん、人刺したんだってね)



無数の目が此方を見る。
無数の口がそう囁く。
無数の手足が体を痛めつける。


(人殺しの子ども!)


違う、違うと祐樹は何度も叫ぶが、聞こえない。
視線は止まない、言葉は止まない、痛みも、止まない。
空腹と、痛みと、孤独と。
祐樹は涙を流すことも忘れて、真っ暗な闇の中に逃げ出した。

走っても走っても、たどり着かない。
どこにたどり着いていいかも、分からない。
誰に助けを求めていいかも、分からない。

ただ、彼はひたすら逃げていた。


(我慢しなくちゃ)

そう、言い聞かせて。


その瞬間、祐樹は何かに躓き、思い切り顔面から地面に墜落した。
顔に走る痛みに表情を歪めながらゆっくりと起き上がる。
すると、目の前には。
幼い頃の祐樹がじっと祐樹を見つめていた。
自分の幼い頃の姿なんて、分かるはずも無いのにそれは確かに自分そのもの。
悲しそうに顔を歪めている。目じりが赤いのは、きっと泣きはらした後なのだ。

そして、彼はゆっくりと言葉を紡ぐ。


「ねぇ、何がそんなに怖いの?」


くるくると瞳を不思議そうに動かし、祐樹を見つめる。その顔は確かに自分の顔なのに、ひどく気色悪かった。
自分だからこそだからだろうか、吐き気が催してくる。
それと同時にまた呼吸が乱れてきた。
祐樹は必死にゆっくりと深呼吸する。しかし、彼は何度も問うた。


「もう、昔のことだよ。
いつまでもそうしていたら、じいちゃんとばあちゃんが可哀想だよ。
心配してくれる友達がいるのに?もう心配かけちゃだめだよ」


やめてくれ、と掠れた声が出た。
まるで、自分で自分を咎めている状態がひどく苦しい。
誰かに咎められるより、それはあまりにもリアルで祐樹を痛めつける。
分かっているけれど、分かっているけれど、思い出しては苦しくて仕方ないのだ。
寂しくて、仕方ないのだ。悲しくて、仕方ないのだ。
けれどいつまでもそれに縋っている自分が、ひどく醜いと祐樹は思っている。

祐樹の声を聞いた、幼い祐樹はにこり、と笑った。
その笑顔は何だか子どもらしからぬ、悪魔のような可愛くない微笑。
自分はこんな顔をして笑っていたのだろうか、と祐樹はゾッと身震いする。


「友達だけじゃ、足りないンだよね」

友達も、結局他人だもの。
ずっと一生一緒に傍に入れるわけではないから。
幼い祐樹のはずなのに、その言葉は大人びていた。

違う、と祐樹は首を振る。
今まで友人が少なかった祐樹にとって、友達は大切すぎる位の人たちだ。
足りないなんてことはない。
けれど、それがただの綺麗事だってことは、心の奥底で分かっていた。


そして気づく。
この子どもは、幼い頃の祐樹ではない。
自分の心の奥底にいる、自分自身を咎める存在。


気づいた瞬間、ぷつりとテレビの電源が落ちたかのように、その映像は真っ暗に染まってしまった。

- 52 -


[*前] | [次#]

〕〔サイトTOP


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -