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落ち着かない。
その一言。
祐樹はいつも通り変わらない学校生活を終え、バスに乗って店へと向かっていた。
いつもはバスの中が暇なので単語帳やら何やら開いているのだが、今日は全く持って身に入らない。
開いたと思えばすぐ閉じ、閉じたと思えばまた開く。
その繰り返し。
なんでこうなっているかも分からない。
何かむずむずとした感触が、太ももを通って心臓に直結する。
まるで動脈が脅えているかのように。
とにかく早く着きたい、と願うばかりだった。
やっとホームセンターに着き、エプロンを着用しようと祐樹はロッカーに手を伸ばした。
「…あれ?」
中がいつもと違う。たった1つの贈り物だけで。
(…東條さん!)
祐樹は恐る恐る、その可愛らしいラッピングされた箱を取り出した。
メッセージカードには「岡崎先輩へ」と可愛らしい字。義理だろうけども、女子からのバレンタインチョコに、祐樹は一気に舞い上がった。
思わず頬を緩ませてにへにへと笑う。が、直後。
(あれ?今日シフト被ってるはずじゃ…)
見回しても彼女らしき人物はいない。ましてや今日の彼女のシフトはレジ。入ってきたときに見かけなかったはず、と祐樹が首を傾げたとき、ドアが開いた。
「おはよう、岡崎」
「あ、おはようございます…」
書類を持って西條が入ってきた。
思わず祐樹は目を逸らす。
そんな祐樹を気にも留めず、西條は店長机に座り、書類を手際よく分け始めた。
そして、
「東條は欠勤だぞ」
と告げた。
どうやら年の離れた弟が熱をだし、彼女が看病しなければならないらしい。最近風邪が流行ってるな、とつい最近まで罹っていた西條がため息を漏らしながら呟いた。
「そうスか…」
どうせなら直接受け取りたかった、と祐樹は肩を落として嘆いた。
そんな祐樹を見て、ふと西條が呟く。
「…そこの机の下に昨日貰ったやつがあっから、好きなのとってけ」
俺甘いもの食わねぇから、と人事のように告げる。
だが甘いものが好きな祐樹にとっては嬉しい出来事。
ぱあ、と表情を明るくしてありがとうございますと言いながらばたばたと身支度を整えた。
祐樹が身支度を整え、店内に出て行った後。
西條はぼんやりと宙を見て、ある疑問について考えていた。
解決するのにはまだ少し時間と労力が必要だが、それでも彼はその柵を解いて「やりたい」と願う。
薄っすら聞こえるBGMを耳に入れながら、くるくるとペンを回す。