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眼鏡の奥にある瞳を困惑の色にさせながら、
雄太がそこに立っていた。
西條を見るのは始めてでは無いだろう。
しかし、朝帰りとしか思えない状況に、
「…祐樹、ちょっと」
「なんだよ」
雄太は祐樹の肩を掴み、いわゆる内緒話を始めた。
「お前、西條さんとお泊り?」
男同士で泊まっても別に何ら問題は無いのだが、
今朝の祐樹は違っていて、
ぶわ、とあのやりとりを思い出し。
「べ、べ別にそんな変な意味は!」
顔を真っ赤にしてわたわたと慌てた。
その様子に雄太は何かあったのだと確信し、
また後で聞くとだけ言って祐樹を解放する。
西條はその様子を不思議な目で見ながら、
「じゃ、俺はここで。またな岡崎」
「は、はい」
そう告げて、ホームセンターへの道を軽やかに歩いていった。
その背中をぼんやりと見ながら、祐樹はまた思い出す。
『してほしいのか?』
目の前にある唇が動いたのを。
またもや頬まで真っ赤に染まる祐樹。
隣で雄太がにやにやと笑っているのも分からないくらいに、
祐樹はそのことばかりを考えていた。
早朝のバスは静かである。
その中で異色な話が飛び交った。
主に、祐樹と雄太の間でのみ だが。
「だからさ、お前西條さんのこと好きなんだって」
「ありえないありえない!」
「じゃあ何で泊まりくらいで動揺したの」
「お前が変な風に聞くからだろ!」
こそこそと静かな声で言い合う2人。
感情が顔に出やすい祐樹は、先ほどから真っ赤になったり真っ青になったりとくるくる表情を変える。
そんな幼馴染兼親友に、雄太はにやにやと意地悪な笑みを向けた。
その表情を見て、更に祐樹は憤慨する。
「俺、男好きじゃないし!っていうか西條さんだけは絶対ありえねぇ!」
「まあ、今日のバイト頑張れよ」
憤慨する祐樹を軽くあしらいながら、雄太は喉を鳴らし笑う。
何でこんなに自分が混乱しなければならないのだ、と祐樹は頭を抱えながら、精神安定のためにと英単語帳を開いた。