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今度お礼をしたい、と言いながら頭を下げる西條はやっぱり大人だなんて祐樹は思った。
もちろん祐樹の祖父母は2人とも好印象を持ち、いつでも遊びに来てください、元気になってよかった、祐樹をよろしくお願いしますと口々に言ったのだった。
更に、一緒に朝食を摂ることになり、またまた不思議な気分になる祐樹。

今日の朝食のメニューはいつも通りの和食。
白飯に、納豆。
焼き魚にほうれん草のお浸しに、シジミの味噌汁である。
質素だが温かく栄養のある食事に、西條はちょっと遠慮がちに出された分だけ全て平らげた。いつも朝はトーストとコーヒー程度なので腹いっぱいである。
しかし、「働き盛りなンですからもっと食べてください」なんて祖母におかわりされるものだから、西條は結局朝からご飯茶碗2杯食べさせられてしまった。

そして、西條は祐樹と一緒に岡崎家を後にする。
お世話になりましたとまた礼を言う西條。
祐樹はいってきますと小さく呟いて、そわそわと西條の隣を歩き始めた。


「出勤して平気なンすか」


バス登校のため、人より早い登校。
と言っても途中で雄太と合流するので1人では無いのだが。
けれどいつもとは違い、今は


「まぁな、おかげで全快だ」

隣に西條がいる。
仕事着のまま連れてきたので、何だかバイトと変わらないな、と思いながら祐樹は西條の言葉に「よかった」と笑みを浮かべた。
実際、祐樹にとって西條が元気になるのはとても嬉しいのだ。
倒れたときはこの世の終末か、位の勢いで心配した身としては。


にこにこと珍しく微笑み続ける祐樹を西條は横目で見やる。
朝日に照らされた彼の笑顔は、ひどく綺麗だった。


「…岡崎、」

「はい?」

西條が呼びかければ、その笑顔のまま見上げる。
朝日が細めた目に当たり、睫毛がキラキラ光っていた。
何だか綺麗だと、西條は思えた。が、しかし、


「さっきから何にやけてンだ?」

なんてデリカシーの無い一言。
笑っている、ではなくにやけているでは印象はガラッと変わるものだ。
祐樹は一瞬ぽかんとしたが、すぐに表情を怒りに変え、顔を真っ赤にした。

「に、にやけてねぇし!」

そう言い返すも、西條は怯むどころかますます意地悪に笑う。


「朝からえろい事でも考えてたンじゃねぇの?」

「考えてねぇよ!」


病み上がりのくせに元気だ、と祐樹は思いながら軽く憤慨した。
それでも自分より8つも年上な西條にかなうわけもなく、面白いと言われて流される。
ふと、祐樹は何気なく隣を歩く西條を見上げた。

朝日に照らされた綺麗な顔。
しかし祐樹の視線はどうしても唇に向いてしまう。
薄い唇は確かに柔らかそうだが、その形は意地悪に笑ったままだった。


「ん、?」

どうした、と聞かれ祐樹は慌てて視線を逸らした。
凝視していた自分が恥ずかしい。
火照る寸前の頬を抑えながら、祐樹は何でもないですと答えた。

「…岡崎」

そんな祐樹に、西條は前を向いたまま呼びかけた。
反射的に振り向けば、西條は何か言おうと唇を動かす寸前。

祐樹のこころが、
なぜかどきりと脈打った。


「…あ、」

「祐樹!」

西條が言葉を発した瞬間、ちょうど祐樹を呼ぶ声がそれをかき消してしまった。


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