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ゆっくりと掌でお湯を掬う。
ゆらりと揺れては、指の隙間から落ちる雫を祐樹は眺めた。

祖母から風呂に入ってきなさいと言われ入り、もう30分以上過ぎた。
いつもなら20分程度で済ますのだが、何故か出るに出れないのだ。

それもそのはずで、今自分の部屋に西條が寝ている。

自分のプライベートエリアに他人、ましてやバイト先の社員など入れるなんて考えられないのだ。
いくら病人とはいえ、何だか気恥ずかしい。
別にアダルトな本を隠し持っていたり散らかっている訳では無いのだが。

(西條さんが、俺の部屋で寝てンのか…)

改めて考えると、やっぱり気恥ずかしくて思わず祐樹はばしゃばしゃと水面を叩いた。
跳ねたお湯がやんわりと頬を濡らす。

そろそろ上がろう、と腰を浮かすと、
ふと目の前の鏡に映った自分に祐樹は眉を顰めた。

くせのある髪から落つる雫。
音も立てずに湯船に落ちる様を、ぼんやりと見た。


『祐樹、ごめんね、』



嗚呼、あの日も確かに雨だった。


(…あがろう、)


ため息を湯気に乗せて、祐樹は脱衣所に向かう。
ぼんやりと宙を見ながら着替え、恐る恐る西條の寝る自分の部屋へと足を進めた。


きしり、きしり
テレビの音が遠いおかげか、廊下のきしむ音が響く。
起こしたらどうしよう、なんて考えながらも祐樹は足早に向かった。




ちょうど西條と祐樹の祖母の会話が途絶えたその時。
祐樹は恐る恐る襖を開ける。
寝ていた西條のために薄暗くしてあった部屋はいつの間にか灯りがついて、横になっていた彼は上半身だけを起こし粥を食べていた。

ほ、と安堵の息を吐くと、振り返った西條と目が合う。
祐樹は思わず、小さな声を上げた。

「祐樹、寝るのかい?」

すると、祖母が祐樹に優しく話しかけた。柔らかい声に、祐樹はやんわりと微笑んで頷く。
それに安心した祖母は、祐樹に冷えピタの替えやタオルを渡すと自分の寝室へと帰っていった。

途端、静かになる部屋。
濡れた髪をタオルでくしゃくしゃに拭きながら、祐樹は自分の布団をひき始めた。今朝干したのか、太陽の香りがする。
潜り込むと鼻孔いっぱいにその香りが広がり、祐樹は柔らかな眠気に包まれた。

ふと、西條の様子が気になり布団から顔を出して隣を見つめた。
あまり広い部屋では無いので、すぐ隣とはいかないが意外に近い。

「…お前、うつるだろ 」
「あ、え、…多分 だいじょぶ…」


たどたどしく言えば、西條は一瞬訝しげに眉間に皺を寄せたが、


「…腹冷やすなよ」


と冗談を言いながら天井を見つめる。
まだ熱が下がらないのだろう、息が若干荒い。
それなのに西條は瞼も下ろさず、ずっと上を眺めている。
眠れないのだろうか、祐樹は不思議に思って彼の額に手を伸ばした。

「…替える」

やはり貼っていた冷えピタが剥がれかけて尚且つぬるい。
近くのコンビニで買ったのだが、今流行りの長持ちタイプでは無いのだろう。
祐樹は箱から新しいものを取り出すために、軽く起き上がろうと した。



後頭部に枕が当たった と思えば右腕が何かに掴まれ痛い。
起こった状況がさっぱりわからず、祐樹はただただ口を開けたままでいるしかなく。


目の前の渇いた唇が、
緩やかに動くのを見た。




「お前、俺に同情してンのか」



そう言われて、祐樹はやっと気づく。
自分が押し倒されて尚且つ自分の心を締め上げるような問いを投げかけられていることを。

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