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訳も分からず祐樹は走る。
右も左も分からない。
そもそもここがどこだか分からないのだ。
ただでさえ外はもう日が落ちきっていているのだ、方向を知っているなど祐樹はそんなに土地勘はよくない。

それでも、彼は走った。

混乱する頭は、そう体に命令するから。

(西條さんに聞かれてた、見られてた、俺、なんて失礼なことしたんだ…!)

それでもなぜか止まらない涙。
祐樹にはわからない。どうして自分がこんなにも心揺すぶられて泣いているのか。
感動映画を見ていないからか、それともただ彼の過去があまりにも悲しいからか。

違った、
西條が泣いていたから。

そう心の中で確信した瞬間、止まりかけた涙が大粒になってぶわっと 溢れ出た。



「待て、おい岡崎!」


背後で声が聞こえる。
追いかけてきたことを祐樹は知り、より慌てて速度をあげる。
しかし、祐樹は成績がよくとも体育の成績はよくない。それこそ赤点スレスレ。導き出される答え、祐樹の脚力は弱い。

必死に走っていたつもりだが、全力疾走の西條には足元にも及ばず、簡単にその腕を捕らえられてしまった。それでも抵抗しようと力を入れるが、もう力など残っていない。

諦めて、祐樹は立ち止まり、必死に涙を拭う。

向き合った西條は、彼を見下ろしながら、


「お前、出てってどこに行くつもりだったんだよ」

「…別に…」

そう言うが、祐樹は嗚咽を漏らしながら適当な返事。
そのうえ話を変えようと、「東條さんは」と聞いた。
西條は半ば呆れながらも、

「しばらくしたら案の定赤井が来たから受け渡した、で、暇ンなったからここ来た」

淡々と説明する西條の話を聞きながら、祐樹はなんとか涙を抑えることに成功する。
おかげで嗚咽も止まった。
祐樹は「それは残念っすね」と呟きながらやんわりと西條の腕を振りほどく。
そして、俯きながら呟いた。蚊の鳴くほどに。



「…ごめんなさい、俺、ばかみてぇに、泣いて…しかも、思い出したくないこと聞いちゃって…」



て、と言ったその時だった。
振りほどいたはずの腕が、また祐樹の腕を掴み、力いっぱい引き寄せる。
そのまま倒れた祐樹の顔は、西條の胸の中。

包まれる、温かみに。

それは西條の腕だったと気付く前に、祐樹の体はぎゅうぎゅうと西條に抱きしめられていた。


「さ、西條、さっ…!?」


そう抗議するも、力の入らない体は何も出来ない。
ただされるがままに抱きしめられる。
全身に触れる西條の体。鼻腔には彼の太陽のような香りがいっぱいに広がった。
その熱にただ驚いていると、耳元で小さな声が聞こえた。
それは、たった5文字の言葉。ありがとう、と。
なぜそれを自分に言うのか分からなくて、祐樹は目を丸くする。
そんな祐樹に気づいたのか、気にしなくて良いと小さく祐樹の耳元に声が届いた。

この言葉は、礼の言葉では無い。
ただ自然と口から出ていた、自己満足に似たものだった。



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