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(でも、言わないとダメだよなあ…)
携帯の画面はホームセンターの番号が表示されている。
祖父母に聞かれると何だか悪いので、祐樹は1人寒い中外の縁側に座って携帯を握っていた。
と、言っても流石に毛布にくるまりながらだが。
それでも息は白い煙になって昇る。
(まだいるよな…)
今日のシフトは西條と店長と航。
まだ閉店時間を過ぎていないので確実にいるはずだ。
このままずるずる引きずって、当日になりドタキャンかよてめー殺すぞで脅されたくは無いのだ。
緊張で縮小する腕の血管がむず痒い。
それを叩いて振り切りながら、祐樹は唾を飲み、ダイヤルボタンを、押した。
3回目のコール。
『はい、ホーム浅見店西條です』
取ったのは本人という強運に涙を飲みながら、祐樹は震える唇でなんとか声を出した。
「あの、岡崎です…」
『あ?どうした』
声のトーンからしてあまり忙しくは無いようだ。
時間的に閉店間際でそんなに人が居ないのだろう。余裕のあるトーンだ。
なら、言える。
そう祐樹は意気込んで次の言葉を噤んだ。
「あの、…クリスマスのことなんスけど…」
『どうした、行けなくなったか』
察しが良すぎる!と祐樹は後ろに倒れそうになった。
その勢いに任せて、そうだと言う。
「すんません、課外が意外にきつくて…」
『ん、そうか』
声色が、優しい。
普段ならまるでどこの不良だと言わんばかりに怒るのに。
祐樹は思わず断ったことを後悔しそうになった。
だが息を呑んで、更に言いにくいことを必死に伝える。
「…あの、俺の代わりに、…東條さん…行ってくれるンすけど」
胸が、痛む。
ひよりの笑顔と、西條の滅多に見せない微笑がなぜか脳内にリフレインする。
『ああそうか、…赤井ってやつにせいぜい気をつけて行って来るか』
「…うん、気をつけて」
『じゃあ勉強頑張れよ』
そうやってまた、優しい言葉をかけて西條は電話を切った。
空しい機械音を何回か聞いて、祐樹も電源ボタンを押す。
寒い、そう祐樹は感じた。
そんなことは最初から分かっているはずなのに。
白いため息を吐く。
(…俺、最近怒られない)
確かにそれは願っていたこと。
毎度毎度怒られてイライラしていたのは事実なのだ。
しかし胸に引っ掛かるそれ。
(東條さんが居るから、かな)
自分より経験が無く、自分より不器用。
そのうえ可愛いし、元気で育てがいもある。
それは同じ男としてそちらを選ぶ気持ちは分かる。
のに、
(なんか寂しい)
自分が、必要とされていない
みたいだった。