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時は淡々と過ぎてゆく。
期末テストと予習とバイトに追われる祐樹は、結局西條にチケットをひよりに渡してしまったことも言えず、冬休みを迎えた。
あと3日でクリスマスだというのに。
「じゃあ、ここにXを代入するとどうなるかー…岡崎」
「…すみません、もう一度お願いします」
「聞いてなかったのか?」
「…すみません」
数学の課外、祐樹はまともに話も聞けなかった。
かと言って問題がわからない訳ではない。
言われれば解けるし、予習はしてあるので進度も分かっているはずだった。
クラスの中でも上位にいる彼の失態に、周りもざわつく。
数学担当教師も、風邪でもひいたのかと心配するが、大丈夫だと笑顔で返されるのでなんとも言えなかった。
ただ、隣の席の雄太だけが不思議そうに祐樹を見つめていた。
「お前、西條さんと行くの?」
「…行かねぇよ」
「なんで?」
課外を終え、夕方の帰路。
雄太と祐樹は並んで歩く。
昨夜薄っすら降った雪が、アスファルトに積もり、2人の足跡を残す。
ぼんやりとそれを見下ろしながら、祐樹は呟いた。
蚊の鳴くごとく。
「…俺、あの人の事嫌いだし」
その虚ろな目はどこに向いているのかわからない。
ただ遠くを見ているだけだ、と雄太は思った。
雄太には、彼が何を思ってそれを言ったのかはわからない。ましてや何故そんな行動をとったのかも。
ただ、彼には言及することしか出来なかった。
「じゃあなんでそんなに元気ねぇんだよ」
「…寝不足」
「東條とか言う子にふられたから?」
しかし反応は無い。
以前肩を落とされながら聞いた、インパクトのありすぎる東條への恋愛感情とは別らしい。
祐樹はゆっくりと夜空になりかける空をまた仰ぎ見た。
一番星が鈍く輝き、若干のオレンジ色に燻る。
茶色の瞳にその空は映る。
鈍く、鈍く。
祐樹も自分の感情が何をそんなに体を脱力させるのかわからない。
(…せっかく、西條さんがくれたのになぁ)
とりあえずそれを、義理を裏切ったことへの申し訳なさに片付けることにした。
そろそろ自宅に着く。
斜め後ろで、いまだ心配している雄太の方を振り返り、祐樹は悪戯に笑って言った。
「俺より、航先輩もうすぐ卒業しちまうンだから、さっさとケリつけろよ!」
「…な、!?」
「最後にちゅうでもしとけ!」
「おまえっ…そんなんできるか!」
耳まで真っ赤にした雄太の声を振り切って、祐樹は自宅へと消えていった。
ぼんやりと、雄太は耳が冷えてゆくのを感じながら祐樹の自宅を見る。
昔からなんら変わりない家。
祐樹も、最近明るくなったとはいえ、変わらないと思っていた。
しかし確実にどこか変わり始めた。
その歯車は一体誰が動かし始めたのか。
雄太には何となく予測がついていたが、あえてそうだと決め付けることはしなかった。
(分かったら、あいつはきっと首振るからな)
クリスマスまで、あと3日。