6,
----------
「帰りが遅いから来てみたら!お前、社員だろ!社員がバイトに手をつけていいと思ってるのか!」
ぎゃあぎゃあと喚く彼は、ひよりの手をひき尚且つ西條を思い切り敵視する。
いきなり知らない人物に敵視され、西條もただただ目を白黒させるばかり。
とにかく誰なんだと祐樹が慌ててオブラートに包みながら言うと、
「ひよりの恋人だ!」
と豪語する。
確かひよりに恋人は居なかったはず、と祐樹は何度か交わしたメールの内容を思い出していた。
では彼はストーカーか何かか、と祐樹が慌てだした直後、
「ふざけたこと言ってンじゃねえ!」
鈍い音が薄暗い店内に響く。
自動ドアの前にはごろりと転がる先ほどの男。
よくよく見れば彼はひよりと同じ奈多高の制服を着ていた。
だがそんなことよりも、西條と祐樹は、目の前で怒りの炎を燃やしきるひよりに目が離せなかった。
「誰が誰の恋人?こうちゃん何をほざいているのかナ?しかも仕事場に来るなって言ったよね?そのうえ閉店後に勝手に入るなんて…」
「えと、その…東條、さん?」
普段のおっとりとして尚且つ可愛らしい笑みを浮かべるひよりは、どこにも居ない。
思わず震える声で祐樹が話しかけるが、まるで聞いちゃいなかった。
震えるこうちゃんと呼ばれる彼の目の前に、ひよりは恐ろしい形相で仁王立ちする。
そして、悪魔がいや死神が舞い降りた。
「永遠に眠らすぞア"ア!?」
「ごめんひよ…ぐほっ!?」
明らかに喧嘩慣れした蹴りが彼の腹にクリーンヒット。
細い足からは想像のつかない威力が、音で嫌なほど分かった。
あまりの豹変振りに、祐樹のなかでがらがらと何かが、崩れ落ちたのだった。
そんな祐樹の肩に、西條は手を置く。
それは同情と慰めの意味がこめられていた。
「…お前、奈多高知ってるよな?」
ため息を吐きながら、怒りに身を任せたひよりをやっぱりかという顔で見つめる西條。
そんな彼の顔を不安気に祐樹は見つめ、名前だけならと答える。
それもそのはずで、祐樹は中学の頃から成績が良く、今通っている進学校以外眼中に無かったのだ。
だが、それが仇となった。
「奈多高っつうのは、
不良か元不良の巣窟だ」
ぐらぐら、と祐樹の眼球は居所を失くす。
まさかあのお嬢様的な容姿をして、性格も可愛らしいはずのひよりが、不良だ、など受け入れられるわけも無く。
ただただ呆然と事実を受け止められないでいた。
それでもひよりの怒号と、鈍い音と、こうちゃんと呼ばれる男の悲鳴は無情に響き続けた。